「あき」星野文花

「きれいだね。」
『そうだね。』
彼と迎えた2度目の秋だった。
ついひと月前のうだるような暑さはとうに消え失せ、代わりに頬を涼やかな風が撫でるようになっていた。
帰り道。オレンジ色の光が私たちを照らす。下に新幹線が通っていて、私達はその橋の上を歩いていた。ここは見晴らしが良く、時には富士山も望める場所である。私達はここを何度通ったことか…季節の色を感じられるこの場所は、私の好きな場所であった。
彼が無言で手を差し出す。
私も無言で手を重ねた。
その瞬間の暖かさは、ポケットの中のカイロよりも強いと思った。
『つめたっ』
「手先だけ変温動物なんです。笑」
『SFチックだよなぁ』
いつも2人の間には緩やかな時間が流れている。誰も邪魔できない、2人だけの世界。私はこの帰り道が好きだった。ちょうどいい塩梅のこの街の風景も。特別何があるわけでもなく、人々の息や声が聞こえてきそうな、そんな街に高校があり、私達がいた。大都会よりもずっとこっちの方がいい。
「それじゃ、また。」
『うん』
方向が違う彼とは駅で別れる。冷たかった私の手は、まだ何かに包まれているかのように暖かかった。
入れちがう電車の中で、ホームにいる彼と目を合わせた。電車に乗り込むと、もう陽は沈む瞬間だった。
最後の光を放ちながら陽が沈んでいく。そしてまた夜が来て、明日がくる。何の変わりのない日々。私にとってこれは宝物に感じられた。
相鉄線の規則的な音と共に、私は目を閉じた。

___ねぇ、ねぇ、…

小さな紅葉の様な手が私を夢の中から引き戻す。
『ママは疲れてるんだよー。』
ほんのりオレンジ色の炎を灯した彼の目が三日月型に細くなった。
『気持ち良さそうだったね』
同じ方向の電車にのり、同じリズムを感じている。
車窓の外にはあの懐かしい風景が広がっている。
オレンジ色の光、人々の息吹が感じられる街並み…
彼の手はずっと私の手を包んでいた様だ。夕陽は今にも燃えてしまいそうな、儚く強い光を放っている。

「きれいだね。」
『そうだね。』

著者

星野文花