「さらばCDショップ」十留守問

水が飲みたい・・・。
のどの渇きを覚えて目が覚めた。
キッチンでむさぼるように水を飲むと
久しぶりに二日酔いの不快な頭痛が襲ってくる。

昨夜はよく飲んだ・・。
久しぶりに学生時代のバンドサークル仲間たちとの飲み会だった。

洗面所に行き顔を洗いながら昨夜の会話を思い出す。

瀬谷のベースフレーズはかっこよかったよな。
すっかり部長の貫禄の体形だけど現実は係長の西谷が話しかけてきた
まあなそういうお前はギターへたくそだったな

そうだ。西谷はソロはヘタだったけどカッテッィングは最高だった。
けどケチだったんだよね。あだ名はケチヤだったよなあ。
いわゆるJKの会話のようなけどを繰り返しながら学生時代のライブの記憶があふれるように蘇ってくる。
平沼のロックンロールのリフはさいこうだったよねとは大和のセリフ。
大和は雑なジャックブルースのようなベーシストだった。
今は横浜の百貨店の外商だそうだ。
そういえば学生時代よりかなり綺麗な格好をしている。
当たり前か。あれから30年近く立っている。富裕層相手だとこうなるのだろう。

大塚がロックンロールといえば星川のドラムだよねとかぶせてくる。
大塚はドラムをたたきだすといつも最後は素っ裸になってスティック3本だーと
叫びながらよれよれのリズムでたたく。一流のベーシストを自負していた俺としては
一番組みたくないドラマーだった。
でも自宅にサイレントドラムを持ってる所謂ドラ息子で歌はうまかった。
当時はサイレントドラムとDX7を持っている奴はヒーローだった。
どちらも俺たち庶民にには遠い存在だったのだ。
こいつはいまはベッド会社の経理担当だそうだ。大丈夫か?そのベッド会社は・・。

平沼と星川か・・。俺が一緒にバンドを組んでいた仲間で確かに平沼のギターと
星川のドラムは最高だった。
二人とも大学卒業した後故郷の静岡に帰って就職して現在に至る。
以前出張で静岡に行ったとき二人とも時間を割いて歓迎会をしてくれた。
その時はんぺんを頼んで白はんぺんが出てきたとき黒はんぺんじゃないと怒ってたな。

この二人とバンドを組む前まで
ばりばりの日本のロックバンド派だった俺が洋楽の王道レッドツェッペリンと出会ったのは二人の影響だった。

昨夜の飲み会の続きのようなことをぼんやりと思いながら
歯を磨いて40を超えて以降朝の儀式になったエヅキを繰り返し。
音楽用語でいうとリピートってやつね。
音楽用語っていうほどの単語でもないか。

ロックンロールのイントロが頭の中でぐるぐるまわる。
昨夜の飲み会のおかげですっかりロックモードになって
置物と化していたCDプレーヤーを動かしたくなってきた。

幸いにも今日は日曜日だ。よし。CD屋に行こう。
ツェッペリンのCDを買って青春の熱い血のたぎりを思い出そうじゃないか。

今住んでる伊勢原にはずいぶん前に商店街にあった近世堂が撤退して以来
CDショップがない。

海老名に近世堂があったな。
娘に頼まれてアイドルのCDをよく買いに行く店だ。
若い店員は服装はパンクやらヴィジュアル系やらで由緒正しいおじさんとしては
納得はいかないがいつも感じがよくて好きな店なんだ。

そこなら勤め先の横浜までの通勤定期で行けるな。
代り映えのしない朝食を食べながら久しぶりにわくわくするこの感覚は何だろうと
嬉しいような恥ずかしいような感覚に浸っていた。

ツェッペリンのCDありますか?
髪の毛が赤くて青くて立ってる若いお兄ちゃんの店員さんに聞いてみた。

こちとらダイエースプレーのせいですっかり薄くなっているひけめがある。
なめんなよ。お前くらいの頃はふさふさだったんだぞと意味なく張り合う。
あ、もちろん心の中でね。

ツェッペリンですね。お調べします。少々お待ちください。
おお!日本の若者も立派に育っているじゃないかとおもわせる最高の笑顔接客。
日本の未来は君たちに任せた。俺の年金もよろしくねと熱い抱擁をしたいのを我慢しつつ少々お待ちする。

CD出てないですね。

え???
ガラケーしかもっていない俺がその場でググることもできず反論するすべもなく
あーそうですかと退散する。

ツェッペリンが廃盤?なのか?ほんとか?
駅に戻りながら自問自答する。

そうか!今の若者には正式名称を伝えなくてはいけないのかと
いまさらながら気が付く。レッドツェッペリンありますかと聞けばよかったのか。
きっと彼はツッペリンとかツベルクリンとかコッペパンとかで
調べてくれたんだろう。そりゃあ出てかないよね。

よし。俺も来年50だ。同じ失敗はしないぞ。
ツェッペリンは今の店でくじけた。
やっぱり大好きだったバッドカンパニーを手に入れよう。
ポールロジャースの枯れた泣くようなボーカルで酒を飲みつつ今週末を締めくくろう。

確か隣の駅にレンタル店があったな。
そこにCDショップも隣接されていたはずだ。

すみません。バッドカンパニーありますか?

今度は若いお姉さんの店員でまあ可もなく不可もなくな応対だったが
置いてないですね、取り寄せますかの一言ですっかり不可が倍増して
いえ大丈夫ですと一言返し退散した。本当は大丈夫じゃない。

そういえばさっきの近世堂もここのショップも同じような品揃えなのね。
おじさんが感傷に浸りたい青春の名盤は置いてなくて
今はやりのアイドルばっかりチャートコーナーにわんさか置いてある。

よくよく棚を見ると昨夜飲んでた仲間はたぶん全員知らないような名前しか置いてない。
まあでもあいつらは酔っぱらってAKB歌ってたからこれはこれでいいのかもね。

今日の敗因は若い店員に50歳の音楽観を問い合わせたのが間違いだったと
結論をだした俺は店員がおじさんの中古お店を頭の中で必死で検索した。

たしか平沼橋の商店街に頑固おやじっぽい店主がいそうな
中古CDショップがあったはずだ。
俺は日本のロック小僧だったんだ。今日は洋楽はあきらめよう。
きっとお日柄的には洋楽の日じゃないんだ。
カレンダーの暦にも邦楽の日って書いてあった。

エックスだ。エックスだといえばウイークエンドだ。
中古CD店主40年(推定)。あのおやじならわかるはずだ
そして一緒に青春時代を懐かしんでなんならビールでもどうぞなんて
接待されながら80年代を語り合おうじゃないか。

古ぼけた中古CDショップに入りおやじに聞いた
ウイークエンドのCDありますか?

岬巡りは置いてないね・・。

あーそうですか。残念ですね名曲なのにね・・。
仕方なく店を出る。

ん??
違うんだ。
今欲しいのはそれじゃない。

すっかりとCDを聴きたい思いも萎えてしまった。
きっとまた聞きたくなるのは学生時代の仲間と会った後になるだろう。
今度仲間と会うのは何年先になるのだろうか。

さらばCDショップ・・・。
また逢う日まで。

著者

十留守問