「カッパの川のぼり」雅 美佳

 私の夢はなんだろう?
 私は何になりたいんだろう?
 雨に濡れる巨大なガスタンクの前を通り過ぎる様子をぼーっと見つめていると、肩をぽんぽんと叩かれる。
「ナツ!藤崎奈津美!人の話聞いてる?」
「へ?」
 目の前で小島しおりが頬を膨らませて怒っ
たフリをしている。しおりのコノ表情はほんと可愛いと思う。
「だからぁ。志望校、どこ書いたって聞いて
るのに。ガン無視するんだから」
「横浜国大。一本勝負」
「・・・・・・ウソ。マジ?」
 ドアに激しく雨があたっている。急行電車が勢いよく抜いて行き、びくっとする。
「もぉ。志望校どうしよう。って言っても、行かれる大学なんて成績で限られるけど、しおりはフェリス第一なんだよね?」
「うん!いつも通り書いたよ」
「あれ?お姉さんって、卒業だっけ?」
「そう、私と入れ替わり」
「合格すればの話でしょう」
 しおりが肩をばしっと叩く。
「わかってます!合格するんだから」
「しおり、何になりたい?大学出たら、どうするの?なんかやりたい事ってある?」
 きょとんとした顔のしおりの丸いほっぺたをつねる。痛がるしおり。合格への道のりは厳しいかもしれない。

 買ったばかりのレインブーツが汚れるのを気にしながら帷子川の橋を渡る。
 茶色く濁った川の流れは早く、一匹の大きな鯉がおぼれているかのように背びれをくねらせ通り過ぎていく。
「帷子川にはカッパが住んでいる」と、父が寝る前に聞かせてくれた作り話を思い出す。
 子ガッパが自分の夢を探しに、天王橋の下から川の源流に向かって冒険をする話。
どんな冒険だったか忘れちゃったけど・・・・・・
「なっちゃん。学校の帰り?」
「あ!小田島のおばさん。こんにちは」
 このおばさんは、うちの店のお得意さんでパワフルな人。
「今日は学校?この雨の中。受験生は大変ねぇ。でもいい大学に入れば、いい就職もできるし。今が一番大事な時期ね」
「はぁ。はい」
「頑張ってね。またあとでお店のほうに行くから、お母さんにもよろしくね」
 にっこり笑うと体に合わない大き目のレインコートを揺さぶって通り過ぎていく。

 小雨になってきた。
 駅から少し離れた所にある松原商店街は、ハマのアメ横と呼ばれ、こんな雨の日でも活気にあふれている。
 母の声が聞こえてくる。
「ハイっ!雨の日の大サービスだよ。裏起毛のスェット上下がこのお値段。いかがですか」
 その声にかぶさるように八百屋のおじさんが紺色のエプロンをしてリンゴを持ち上げ怒鳴っている。
「なっちゃん、お帰り」
 商店街の人と笑顔で挨拶を交わす。
 ここにいるだけで、なんだか元気になる。

 店裏のドアをあけると商品箱が山積みになっている。月末棚卸の時期はいつもこうだ。
 台所へ入っていくと、大きな鍋にロールキャベツが作られている。忙しいのに手作りの夕飯なんて、何かあったんだろうか。
 母が台所に入ってくる。
「お帰り。試験どうだった?できた?」
「うん。まぁそこそこ。それなり」
「なんだい。はっきりしないね。そんなんで行く大学があるのかね?」
 その言葉とは裏腹に、暖かいココアを
作って出してくれる。
「今日さぁ。どうしたの?夕飯手作りじゃん」
「あ、うん。今日、お兄ちゃん帰ってくるっていうんでね」
「え?なんで?もう休みなんだっけ?大学生ってこんな時期からなの?」
「いや、なんか大事な話があるって言って」
 母の表情からすると、夕飯は荒れそうだ。
 家の電話が鳴る。
「はい。フジサキ洋品店でございます。あぁ。なんだ、紀子。え?うん。そう。今晩、お父さんと話しするって。さっき羽田についたって。雪のせいで出発が遅れたそうでね」
 姉の紀子も事情を知っているらしい。ココアを飲んだら部屋に引き上げようと決心する。
 母は眉間にしわを寄せて電話を切る。
 こんな時は話かけない方がいい。無理やり喉に流し込み、急いでコップを洗う。
「お兄ちゃんね、大学辞めちゃうみたいなんだよ」
「・・・・・・」
「でね。北海道で牧場の仕事につくって言い出して。その話をしにくるんだけど、お父さんが聞きたくないって言って」
「う、うん。でもまだ辞めたわけでもないんでしょ。そういうのやりたいっていうだけで、牧場でアルバイトすればいいじゃん」
 突然ドアが勢いよく開き、兄が入ってくる。
「ただいまぁ。帰ったよ」
 母と私は顔を見合わせる。

 兄の大好物のロールキャベツ。
 たくさんの料理がテーブルの上に並べられ、久しぶりに姉、兄もやってきて家族全員そろったのに、誰一人料理に手を伸ばさない。
 父は不機嫌に腕組みをしている。
「夢?何が夢だ!牧場がどれだけ大変かわかって言ってるのか?お前みたいな素人がちょっとやそっとで出来る仕事じゃないんだぞ」
「おやじに牧場の何がわかるんだよ!仕事が大変なのは働いているから知ってるよ。やりたいんだ。酪農家になりたいっていってるんだよ。それを目指すために・・・・・・」
 テーブルを両手で叩く父。
「大学出てからでもいいだろう。何を中途半端な事してるんだ。せっかくいい大学に合格したって喜んでいたのに、なぜ途中で投げ出すんだ!なぜ卒業まで待てないんだ!理由を言え。納得できる理由を」
「だから、少しでも早く仕事を覚えたいんだ。やりたいんだよ。学校の勉強じゃなく、現場の勉強をしたいって」
「話にならん!父さんは反対だ!絶対!」
 母が下を向いたまま話す。
「お父さんも大輔も、落ち着いて話しして。ね。みんなでどうしたらいいか考えよう。いい方法が見つかるかもしれない」
 今回の母の提案は通りそうにない。
 兄が突然立ち上がり、床に正座する。
 額を床に擦りつける。
「お願いします。どうか僕に酪農をやらせて下さい。お願いします。父さん、母さん」
 唖然とする両親と姉。私は自分が知りたい疑問を兄にぶつける。
「お兄ちゃん。どうして酪農なの?どこにそんなに魅力があるの?大学辞めてまでやりたい仕事なの?」
 兄は顔をあげて私の方をまっすぐな目で見つめる。よくぞ聞いてくれた!と言わんばかりに目が輝いている。
「俺がやりたいのは、放牧酪農っていう、牛を放牧して育てるやり方で、人も牛も自然体でいられる方法なんだよ。例えば出産なんだけど、普通の酪農農家の場合はな・・・・・・」
 正座していた兄はテーブル席に戻ると身振り手振りで説明を始める。
 こんなにカッコよかったっけ?
 夢、見つかったんだね。お兄ちゃん!
 熱く語る兄を見て、父はそっと席をたつ。
 姉と私は、兄の講義も耳を傾け、母がロールキャベツを温めなおしに行く。
 
 その晩、姉も兄も実家に泊まることになり、私と姉は久しぶりに女子トークする。
「大輔、北海道行ってすっかり変わったねぇ。昔はカメラ小僧でさ、ホームや線路脇で撮影に付き合って行ったけど」
 姉は2つ年下の弟を可愛がってたらしい。
「ナツは覚えてないよね?大輔が二俣川のレンタカー店の角曲がった所、あの橋の上で撮影に夢中になって、高い方のカメラ壊しちゃって。お父さんに怒られたっけ」
「全然知らない。そんなことあったんだ」
「お父さん、怒るんだけどさ、なんだかんだ子供には優しいというか甘いというか」
「そうだねぇ。優しいよね」
 姉は布団にもぐりこむと私の方を向く。
「ナツ、そーいえば大学どこ受験すんの?大輔のことですっかり忘れてたけど」
 私も布団に潜り込み、答えを考える。
「どこにしようかっていうか、何をやるか考えてる。何したいのかわかんなくて」
「へ?」
「お姉ちゃん、保母さんになりたいって、いつから思ってたの?」
「あぁ。私は小学生の頃からかなぁ。だって、いつも大輔や奈津美のお守りをしてたじゃない?それで、小さい子って手がかかるけど、可愛いなぁって思ってたから」
「えぇ?いつもお兄ちゃんの事、叱ってたじゃない?私も怒られてたし」
「いやぁねぇ。危ない事するからでしょ」
 姉はクスクスと笑って布団を引き上げる。
「保母さんになりたい!なんて考えてたわけじゃないんだよね。そういう流れというか。なんとなく自分の働きたい事がソレだったというだけで。大輔の絶対やりたいっ!っていうのとは全然違う」
「そうかぁ」
「ナツも、そうなんでしょ。まだ見つからないというか、やりたい事が特にない」
「うん。わからないの。いい大学に行って、いい就職先に行かれるっていう事が、そんなにいい事なのかなって。お姉ちゃんが保母さんになったように、お兄ちゃんが酪農家になるように、私もいつか自分のなりたいものが見つかるのかなぁって」
「そうねぇ。いつか見つかるんじゃない?」
 姉が大きなあくびをして、寝返りをうつ。
「お姉ちゃん?」
 すやすやと寝息が聞こえる。幸せそう。
 姉のお腹にいる赤ちゃんも、夢を見るんだろうか・・・・・・。

 兄が酪農家を目指すと言い切って北海道に去ってから1か月。私はまだ志望校を決められずにいる。
 大学は決まらないけど、やりたい事かもわからないけど、結婚して違う姓になった姉と、たぶん北海道から戻ってこないであろう兄のことを考えると、「フジサキ洋品店」を継ぐのはこのワタシしかいないだろうと思うようになった。もちろん父や母には言ってない。
 洋品店だと経営?服飾デザイン?何の勉強をしておけばいいんだろう?と悩んでいると空気を読まないしおりが腕を揺さぶる。
「ねぇねぇ。ナツ。何考え込んでるの?」
「しおりぃ。ねぇ、うちの洋品店を継ぐのは、このワタシしかいないと思うの。そのためにはどうしたらいいのかなって悩んでた?」
「へ?ナツが?」
 力強く首を縦に振る私。
「あ・の・さ。本気で洋品店やりたいの?用品店やってどうするの?洋服売るの?地元の人相手に商売するの?」
「・・・・・・」
「商売って、ナツが考えてるほど甘くないよ。今、どこから仕入れてどう販売してるか知ってるの?売上はどうなってるとかさ。少しでも知ってる?」
「いや、まったく」
 あきれ果てるしおり。
「まぁ、でも一歩一歩だね。おじさんに教えてもらって。ナツが後継者にふさわしいかどうか判断してもらうのがいいんじゃない?」
 この子、見かけより、いや私よりずっとしっかりしているのかも。悔しいけど。

 その晩、夕飯を食べながら、我が家の後継者問題について切り出してみた。
「は?お前何考えてるんだ!とりあえず大学受験だろう。大輔に感化されたのか?」
「とにかく、しっかり勉強に専念して。家を継ぐとか継がないとかは、社会人を経験してからゆっくり考えればいいんだから。母さんだって、お父さんだって、まだまだ働けるし」
 せっかく寝ないで考えてたのに。こっちが継いであげるって言ってるのに!
「まぁ。気持ちはうれしいけどな。この店は、お父さんの代で締めようかなと思ってるんだ。子供の誰かに継いでもらおうとは思ってないんだよ。」
 父は寂しそうな笑顔で話しをする。
「3人のうちの誰かにって考えたことはないんだ。母さんとも言ってたんだけどね」
「そうよ。紀子が長女だからとか、大輔が男だからとか、二人が出ていって奈津美しかいないとか。継いでもらおうと思ってないんだから。奈津美は奈津美のやりたい事をやればいいの。まずは大学にいってから」
 なんだか悲しくなってきた。自分がいらない人間のように思えてしまって。役立たずのような気がして・・・・・・。
 自分でも知らないうちに涙がこぼれてくる。
 家を継ぎたいと心の底から望んでいたわけじゃない。そうしたら両親が喜ぶかなぁという小さな思いだっただけなのに。
「そっか。わかった。了解」
 とにかく自分の部屋に帰りたかった。一刻も早くこの場からいなくなりたかった。
 とてもいいアイデアだと思ったのに、私の「夢」ができると思ったのに。
 誰からも必要とされていないみたい。
 そういうのって、悲しいことなんだね。
 
 翌日。放課後の個人相談室。担任との面談。
「藤崎だけだぞぉ。志望校も学部すらも決まってないのは。もう1か月前に合格率の資料渡しただろ。もうあの中の一番上で決めるか?俺がテキトーに決めていいなら、こっちで作っちゃうぞ。それでもいいのか?」
 やる気、元気、ゼロ。無気力コンテストに参加したら優勝できそうな気がする。
「はい。先生が決めてくれて構わないです。もうどこでもいいです。通える範囲の大学であれば文句はいいません」
「おいおい。どうした?自分の人生だろ。そんなの人に託していいわけないだろう」
「いいんです。もう何がやりたいのかわからないし、やってみようかなと思うことも、やらなくていいって言われるし。見つける自信もないし、見つける気力もありません」
 私は言いたい事を言うと相談室を出る。
 担任泣かせだよとしおりに怒られる。

 個人面談だけだったので、午後は自由。ランチ誘われたけど全て断って地元に戻り、さっそく着替えて自転車で出発。
 すごくいい天気だ!
 数日続いた雨のせいで、帷子川は濁っているけど、源流の冒険をするのは今日くらいしかない。どれくらいかかるのか想像つかないけど、夢を見つけにいってやる!
 天王橋の下じゃなく上からだけど、徒歩じゃなくチャリだけどね。
 地図を見て、まずは川辺町まで進む。あっというまに公園が見えてくる。母親数名と子供達が階段状の広場で遊ぶのが見える。ぐんぐんとママチャリを漕いで行く。
 和田町、星川の川沿いは茶色く枯れた草が茂り、川幅が狭くなっていく。
 川の周囲には大きな団地があり、私の横を子供達がキックボードですり抜けていく。
 何がしたくて上流を目指してるんだろう。
 源流を目指したら何かが変わるわけでもないのに。源流の写真ならサイトにいくらでも転がってるのに。
 夕暮れ、それには白い色の月が見えている。
 帰りの音楽が聞こえてくる。
 どこまで来たんだろう。川に沿ってきたから道に迷う事はないんだけど、あとどれくらいで源流なんだろう。
 急がなくちゃ。早くいかなくちゃ!
 帰りが遅いと心配するから。いつだって、気にかけてくれて。見守ってくれて。
「うわぁ!あ!」
 ガっと音がしてペダルが頼りなく空転し、力を入れて漕いでも、自転車が先に進まない。 
 チェーンが外れたらしいけど、こんな時はいつもお兄ちゃんになおしてもらってたから、やり方がわからない。
「あぁ。困ったなぁ。どうしよう」
 電話かけてきてもらおうかな。
 いや、ここに自転車おいて電車で帰ろうか。
 やっぱり歩いて帰ろう。そうしよう。
 片足で漕いでは見たものの、長くは続かず、結局手で押して帰ることにする。
 
 こんなに遠くまで来たんだっけ?
 もうそろそろ天王町に来てもいいのに。
 とぼとぼ、ノロノロ歩いてきたから、時計を見たら23時過ぎてるし。
 やっと見慣れた景色までやってきた。
 携帯には母からの着信が山ほどきてる。
 姉と兄、しおりからも。あ、担任の山田からも着てる。これはさすがにまずい。
 天王橋の上、商店街にすぐには帰れず電話する。怒ってるけど、涙声の母。
 もう高校3年生なんだから、塾でこれくらいに帰ることもあったじゃん。
「すぐに迎えにいくから、そこにいなさい」
 迎えに来る方が時間かかるのになぁ。
 私より真っ青な顔をした母が、猛スピードで橋に向かって走ってくる。
 なんだか毛布みたいなのを手に持ってる。
「奈津美、どこいってたのよ。心配したんだから。どこいってたの。なんで連絡しないの。どれだけ心配したか。お父さんと0時すぎたら交番にいこうって」
 お母さん、瞼が真っ赤だよ。お母さん。
「ごめん。夢、探しにいってた」
 我が家の匂いがする毛布にくるまれた。
 別に遭難したわけじゃないのに。
 でもありがと。こうしてほしかった。
 母との感動の再会!
 怒られつつ、天王橋から10分かからない
商店街へと帰る。
 
「それで、夢見つかったの?」
「・・・・・・見つけられなかった」
「そっか。見つからなかったか」
 母に聞いてみたくなった。
「お母さん、お母さんの夢って何?何だったの?学生の頃、どう考えてたの?」
 母は優しい笑顔で話しをする。
「そうねぇ。奈津美くらいの頃は、アナウンサーだったかなぁ。中学の時放送部やってたから。大学出て、普通に就職試験受けて社会人になったけど、その時はアナウンサー無理だって思って受けることもなかったな」
「どうして?やってみようと思わなかったの?あきらめたの?」
「そうねぇ。あきらめたね。無理だって思ったもの。あきらめなかったらアナウンサーになれたのかどうかもわからないけど」
 いつの間にか壊れた自転車を母が押している。
「夢っていうか、未来って、今の積み重ねでしょ。こうして奈津美とお母さんと歩いている“今”がもう未来になって、すぐに過去になって。夢ってさ、今が積み重なってくんじゃないかな。今を1つ1つ大事にしてたら、やりたい事もなりたいものも見えてくる」
 私は母の横顔を見つめている。
「お母さんだって、学生のときはアナウンサーになれなかったけど、今だってやりたい事はあるし。夢も出てくる」
「どんな?」
「この後、家に帰ったら奈津美とココア飲みたいし、来週は小田島のおばさんにスウェット上下をタイムサービスしたいし。来年はお姉ちゃんの赤ちゃん抱っこするし、大輔の牧場も見に行くし、お父さんが引退したら二人で温泉行きたいし」
「え?それ夢?」
「どれも未来の楽しい事じゃない?違う?」
「・・・・・・」
「今を重ねて、たくさんの今を大事にして、それには自分自身も大切にしていけばさ、やりたい事も見えてくるんだよ。見失うことなんてないのよ。悩むことはあっても、それも今の積み重ねだからね。今日みたいな日も思い出になるとお母さんは思うよ」
 なんか、お母さんかっこいいよ。
「そうか。そうだね」
 あっという間に商店街に帰ってきた。
 いつもはシャッターが完全に閉まる時間なのに、締めずに灯りがついている店もある。
「あ、なっちゃん見つかったの?大丈夫?」
 八百屋のおばさん。花屋のお姉さん。
「やだぁ。もう心配させてぇ」
 頭を下げて謝る母と私。
 父がジャンパーじゃなく、コートを着て立っている。怒った顔なのに泣き顔だ。
「ばか!何時までほっつき歩いてる。おま」
 言い終わらないうちに、毛布にくるまっている私を抱きしめる。
「ごめんね。お父さん。心配かけちゃって。帷子川の源流見れなかったよ。カッパの川のぼりの話。もう一度聞かせて」
 久しぶりに父と母に抱きついた。

著者

雅 美佳