「ケンカの原因」mimichichi

横浜駅西口で彼とケンカ別れして、相鉄線の改札を振り向きもせずに通りすぎた日の事を今思い出した。
ケンカの原因は思い出せないけれど、あのときは悲しくて悔しくて、もう会えなくてもいいと思うくらいだったと思う。
初めての一人暮らしで、相鉄線の希望ヶ丘駅のそばで暮らし始め、つきあって間もない彼と横浜で遊んだそんな日の出来事だ。涙目でホームを歩くあたしを、発車を待つ電車の中から吊革に掴まるサラリーマンが怪訝そうに見ていた。今よりずっとずっと過去の話なんだけれど、人目も憚らず泣いたり笑ったりしていたあの頃の自分が嫌いではない。
溢れそうになる涙を必死で我慢していたけれど、あたしはもう泣いていたんだと思う。そんな自分に酔っていたのか、それともホントに周りが見えないくらい自分の世界だったのか。それもまた今となっては覚えてはいないけれど。
電車に揺られながら、1DKの自分の部屋に帰るまでずっとずっと彼の事を考えていた。希望ヶ丘駅で電車を降りても、あたしのモヤモヤは晴れず雨でも降っていたら良かったのにと思ったのだ。なんだか空が眩しくて嫌だったのだ。
こんな日もあった。
仕事がお休みの日、彼が遊びに来てくれてアパートでまたねと見送った後で忘れ物に気がついた。あたしは慌ててサンダルで駅まで彼を追いかけた。今出たのにと思うくらい彼との距離は離れてしまっていて、サンダルで来たことを後悔していた。駅に着くまで彼の背中を見つけることは出来なくて、見馴れた青のジャケットを見つけたのはその姿が改札を抜けた後だった。大声で名前を叫んだけれど人混みの中、彼はいってしまった。あたしはなんだか悲しくなって、忘れ物と一緒にまたアパートへと帰ったのだ。どうしてだろう。又すぐに会えるのに、あの時はずっとずっと離れてしまうようで悲しかったのだ。あたしはいつも相鉄線の改札で、悲しい顔をしている事ばかり思い出すのだ。それでも、なんだかあの頃の自分が可愛らしく素直でまっすぐだった気がして意地らしくなる。
今、あの頃のあたしと同じ年ごろになった娘が相鉄線に乗り大学へと通っている。希望ヶ丘へと降り立つことはないけれど、なんとも不思議な気持ちになる。娘も又ずっと忘れられない思い出をこれから作っていくのだろう。あの時の忘れ物をした彼が今ではあたしの旦那さまなのもなんだろうなんだかとっても嬉しいのだ。
横浜駅西口でケンカ別れして相鉄線へと乗り込んだ、あの時のケンカの原因は今も思い出せないけれど。

著者

mimichichi