「ノスタルジー トレイン」小酒井 順

 チルチル・ミチルは、幸せの青い鳥を探しに行ってしまいました。家に幸せの青い鳥が
いるのも気付かず ―「幸せの青い鳥」―

 昔、哲学者のハイデッガ―は「死は唯一確実な未来の可能性、人間にとって決して避ける事が出来無い」と言いました。又、「人間
は未来の幸福を信じて発展する者である」と
定義しました、もしも発展して死を超越した
時、未来は幸福なのでしょうか?
 私の名前は甲斐浩二、今はもう老年である
現在無職、何もする事が無い。歳のせいか昔
が懐かしい、昔は良かったと日々思う。
 今、私は相鉄線の海老名駅のホームに立って電車を待っている。
 私の目の前に猫が現れた。そして「ワン」
と鳴いて動かなくなり、耳から煙を出し始め
た。私がそれを見ていると円柱型の掃除用ロ
ボットが出て来てロボットアームで猫の体を
つまんでゴミ箱に捨てて去って行った。私は
その後姿を見つめていた。
 その数分後、横浜行きの電車が駅のホームに入って来た。現代の相鉄線は、海老名駅から横浜までノンストップで走っている。
 私は電車に乗り込んだ。私の後から、父親と母親そして5歳位に見える男の子を連れた
親子連れが乗車して来た。
 席に座り発車の時刻を待っているとベルが
鳴り、ドアが閉まり電車が動き出した。
 今の時代の海老名駅は巨大なドームになっていてその中をゆっくり進みドームを出た。
 電車がドームを出ると周りはサバンナだった、そこをレールが一本、真っ直ぐ伸びている。私は外の風景をながめ楽しんだ。電車の
横をシマ馬の群が走っている、それを後から
追う3匹のチーターが走っていた。遠くにキリンの群がゆっくり歩いている、水辺には、
象とカバが水浴をしている、電車が進むとライオンが寝ていた、親子連れの息子がそれを
見てはしゃいでいた。
 大和駅付近を通過したころ、人工で出来た
ジャングルのトンネルに入り、それを抜けると子供が父親に聞いた。
「パパ、あれは何て名前?」
「あれは、ステゴザウルスだな」
「あれは?」
「トリトラケプスだな、あれはアロザウルス
だ」
 電車の横を巨大な恐竜が歩いていて、電車の中をのぞき込んだ。私は恐竜と目が合って
しまった。
「あれはティラノザウルスだな」と自慢気に
父親が息子に言った。
「わーっ、カッコいい」と子供が喜んだ。
 大空をプテラノドンが飛んでいる、そこは
恐竜が闊歩する世界だった。
 これらはもちろん、本物では無い。
実は全てロボットである。
 2018年から始まった地球規模の災害、
大地震、地球温暖化、太陽フレア、スーパーハリケーンにより人間は地上に住めなくなり
地下に住居を移した。
 荒廃した地上にロボットで出来た、絶滅した動物をはなして巨大なサハリパークにして
いる。今の時代、電車は必要ない、ある時、
空間移動装置「ドコデモ行ケルドア」が開発された。ドアからドアへ空間を移動出来る。
電車は昔を懐かしむ人達がノスタルジーにひたる為に旧鉄道を使ったアトラクションとなっている。
 外はまるで旧石器時代の様な風景になっていた。そこを一本のレールが通り、相鉄線電車が走って行った。
 天王町あたりを通過した時、突然火山が噴火し煙と炎を立ち昇らせた。レールの先に地割がおこり、電車すいこまれた。
 我々は一瞬浮遊感を味わい、電車は正常に線路を走る、まるで昔あったリゾート、ディ
○○ランドのアトラクションのようだ。そして電車は横浜駅に到着した。

 私は電車をおりて白一色に統一された大理石で出来た横浜駅を歩いていた。
 目の前を一緒に電車に乗っていた親子連れが歩いている。
「パパ、面白かったね」と子供が言うと、急に動かなくなった。
「ん、どうした?」と父親が聴くと、子供の
耳から煙を出し始めた。
 母親はそれを見て「あーあー、壊れちゃった」と言ったのみだった。
 駅長室の奥から、円柱型の掃除用ロボットが出て来て、ロボットアームで少年ロボットをつかみゴミ箱に放り込んだ。
 それを母親は静観して言った。
「やっぱり男の子は駄目ね、次は女の子がいいは私」。
 振り向いて腕を組んで、父親と母親は行ってしまった。
 あの二人は現実を受け入れて、損得で物を
考え今を楽しむ人達だ、それが幸福になる手段かもしれない。
 そう想いにふけっていると足をすべらして
転んだ。すると、頭が取れて転がった。私は
頭をひろい首を三回まわして取り付けた。
 そう、私も実は、ロボットである。
 実は、未来の人間は脳以外機械で出来ていて、永遠の命を手に入れたが、生身の体を懐かしんで決して幸福ではない。
 昔観た映画で吸血鬼ドラキュラが言っていた、「永遠の命など決して幸せではない、ただ、退屈なだけだ」と。

 人間という者は愚か者だ、大切な物は失ってみて初めて気付く。今ある物に感謝した方が幸福である。

                 了
                  

著者

小酒井 順