「ブルーのスーツとブラックレザーのミニスカートの彼女」市成洋輝

 彼女は突然現れた。ブルーのスーツを身にまとい、ブラックレザーのミニスカート。思わず振り返った。そして、また、瞬時に振り返った。彼女は颯爽と、まるでそよ風のように優しい香りと、あでやかな装いで、私の横を駆け抜けていった。柔らかい眩しさを置き去りにして。
 「えっ、今の感じは、なんなの。誰なの。」何が起きたのか。私は一瞬記憶を失った。衝撃であった。そして、なんと迂闊にも、甘美さに包まれてしまった。
 余韻に浸る間もなく、脳裏にその姿が、その香りが、その装いが、焼き付いていくのを感じた。インパクトは大きかった。しばらく時間のすぎ去るのさえ忘れてしまうほどだった。
 「もう一度会いたい。もう一度会いたい。」「もう一度。」我に返り、腕時計で、今現在の時間を見た。改めて時刻表の前に駆け寄り、時刻表を確認する自分の姿と行動があった。 
 我を忘れて、おもちゃや、テレビや、漫画を楽しみにするような、無邪気な自分が見え隠れしていた。
 私は、毎日の通勤で星川杉山神社の自然の偉大さに感謝していた。その自然のぬくもりを感じ、その雄大さを味わい、その匂いを、全身で浴び、その恩恵に預かる生活をおくっている。特段、何気ない日常の日々の中に生活している。
 星川の駅までの道のりは、長いコンクリートリングを歩く。たとえが妥当性を欠くかもしれないが、なんとなく急に音として表現したくなった。音楽用語でたとえるなら、急斜面と程よい斜面のデュオのようなもの。決してアンサンブルでもなく、カルテットやクインテットではない。急な坂道ではあるが、苦にならない。音楽を口ずさむハミングロードである。「あっ。」なぜ音楽にたとえたかってそれは、コンクリートリング、とりわけリングからきたものなのです。「そう」寺尾聡さんルビーの指輪の歌詞にある。「曇り硝子の向こうは風の街~。背中を丸めながら~指のリング~」なんて感じからかな。
 まあ、あまり直接は関係ないですけど、リングということと、背中を丸めて風の街に向かうところが、なんとなく、坂道を下る雰囲気になにげににてるような気がしたわけだからです。こじつけですけど、この坂を下りるとき、自然と口ずさんでしまうのです。不思議な感じの心地よい坂道ですよ。
 今は、毎日遠回りをして、星川駅を横断する。かつては荷物のいちじ預かり所が階段下にあったこと、両サイドから登り下る人の姿、切符切りの駅員さんの姿や切符切りの音が、あたり前のように目の前に広がっていた。夕方になれば、やき鳥屋さんのおいしそうな匂いや、家庭からする煮物の匂いや、カレーの香りなどが、とても腹ペコの私にこたえたこと。今日の夕飯ごはんは、なにかなと思いめぐらしたことなど。そんな星川駅の駅舎の記憶さえもが、階段の景色を想うと懐かしくも思い出されていた。
 駅を抜け、階段を下り星川駅から保土ヶ谷区役所側方向の帷子川の星川下橋から、遠くの星川橋をかすかに見つつ、また、見えないまでも、天王町方面の柳橋方面に思いを巡らす平穏な日々がある。
 川面に目をやると、最近は視力が落ちたのか、よく目を凝らさないとわからないが、大きな魚や小さな魚、シラサギやスズメ、カルガモ、キジバトなどの姿を見かけることができる。たぶん魚は真鯉であろう。錦鯉もいる。たまに、ボラやザリガニなども見られることがある。
 川面を眺めるのが日課になっている。橋の上から見る川面は日々いろいろな表情で私を楽しませてくれる。笑い顔、これはよく晴れた優しい流れの時。怒り顔、これは台風などの濁流の流れ。泣き顔、これは普通の雨の流れの時だ。その他にも、にこにこ顔、これはしばらく晴天の日が続いたときのせせらぎの流れの時。また、ヘトヘト顔、これは雨が降らず、川の水が少なくなってしまった助けを求める状況の時です。ちょろちょろとしか流れがなく、水が流れていないため、川が疲れて、緊急事態を示し、助けてという時を現わしている時なのだ。
 こんな風に自分勝手に独断で、川に、その流れの表情に名前をつけひそかに一人で楽しんでいる。川の顔を頭に想い描きながら、川面を眺めているのが好きなのである。でも意外とこれは、楽しいものなんですよ。
 もちろん、植物のアシやススキ、タンポポなども群生している川の周辺も大好きなのである。とても横浜駅から10分程度の場所とは思えぬ田舎の素朴な川面である。浅いときはカメが中州やアシの陰で休憩している。「なんてのどかなんだ。」そして、きらめつけの決め台詞は「あー太陽がいっぱい。」なんて、思わず言いたいような気分である。アランドロンになった気分で。あまり、優雅ではないかもしれませんね。でも、優雅より風雅。この素朴な、相鉄の駅周辺を取り囲む景色がとても素朴で純粋で、楽しいのですよ。まさに風雅なのですよ。
 そんなのどかな帷子川も、大雨の時は表情を一変させ、激流と化し、水面も恐ろしいほど上昇し、濁流となり、そののどかさを消し去ってしまい、轟音と豪雨で騒然となる。
 それでも私は傘がおちょこになったり、傘が折れてしまい、傘が飛んでいっても、川面を見つめていることが好きだ。ずぶ濡れの中にたたずみ、静かに一人川面を眺めている。
 たぶん、かなり変なおじさんとみられているのかもしれない。あるいは、傘もなく貧しいおじさんと思われているのかもしれない。
 不思議と皆近寄ってこない。また、声すらかけてこない。まあ、怖いと思うので、当たり前かもしれないが。そんなときは、川面を見ながら、人の思いや感受性なども観察できて、人間ウオッチング。また楽しいひと時である。
 「川は人生だ。いや、人生と似ている。」と私は確信している。なぜなら、そこには、平穏な時もあり、荒れる時もあり、多くの鳥や魚や植物が集まり、寄り合い、語り、去っていく。まさに、人間と同じ環境のようなものが見られるからだ。人生そのものだと私は感じている。だから川が、川面が好きなのかもしれない。
 星川駅から電車に乗るときは、殆どが各駅停車だ。たまに快速が来る時があるが、好んで各駅に乗ることが多い。それは、電車の車窓からゆっくりと走り去る景色が見えるからだ。
 目的地はいずみ中央駅。通院のためにかよってるクリニックです。いずみ中央ひかり眼科である。いずみ中央駅には毎日通勤で通っている勤務地と。行列のできる眼科がある。相鉄線に乗るのはわずか、25分程度の旅だがその車窓からの景色は飽きることはない。居眠りなんかしていたらもったいない気分なので、いつも車窓の景色に見入っている。毎日の変化を楽しみにして電車に揺られている私がそこにいるのです。
 さて、いずみ中央駅を目指す理由は、勤務地がそこにあるからですが。その他にその有名な眼医、いや名医のいる行列のできる眼科に今日も通院するためだ。先生は女性の先生。診断力は自己判断ですが、多分ピカ一だ。待ち時間はあるが、近くのスーパーで時間はつぶせるし、何と言っても患者にとって納得のいく医療を施してくれるのがありがたい。だから待ち時間も苦にならないのかもしれないし、遠くからでも通院患者が来ているのかもしれない。聞き上手で、親切丁寧、確実に診断してくださる。最近では珍しい、納得のいく医療を提供してくださる先生だ。診察が終われば、職場に直行だ。急がなければ。
 さあ電車が来た。乗り込みます。もちろん各駅停車です。各駅停車が、はじめに停車するのは和田町駅。ここは学生の駅であり、街である。朝夕になると学生さんがたくさん乗り降りする。横浜国立大学の城下街である。受験まで大変努力し、頑張ったにもかかわらず、通学でも大変苦労しているようだ。なぜかといえば、急こう配のある坂道を登らなければキャンパスに行きつかないからだ。さらにキャンパスは広い。なかなか、自分の所属する学部に行くまでには苦労しそうである。私はごめんである。もちろん大学の受験の時に受験すらしていないので、横浜国立大学の内情は全く知る由もないのです。つまり、そんなに詳しいことは知らないのです。あくまでも見た目からの感覚ですね。
 だからこそ、和田町商店街には、勉強で疲れた学生さんようにやすらぎや夢があるお店がたくさんあり、安さがあり、ボリューウムがある。そんな、学生たちの胃袋を満たしてくれる現実があるのだろう。お祭りや、ままスタンプで買い物するには楽しい街だ。商店主さんもとても頑張っている街である。
 次の駅は、上星川駅、駅を降りるとすぐ温泉があり、ジムがある。ほんのすこし、歩くがきれいな商店街がある。また、銭湯もあり、とても懐かしい雰囲気である。レトロな街がこれまたいいのである。
 そして次の駅が、西谷駅、西谷商栄会。かながわ産業NAVI大賞受賞事業でも有名な街のようである。西谷商店街もまた活気のある商店街だ。ゆめひろばフェスティバルは楽しみなイベントである。それから何よりも変化があるのは、JRや東急線が乗り入れる新しい駅舎ができることで、また新たな西谷駅が誕生するのは楽しみであり、待ちどうしいことである。
 次の駅は、鶴ヶ峰駅。快速も止まり大きな商店街であり、古くて新しい街である。楽しみも多い、優しい街だ。たぶんたくさん店があり選ぶのも一苦労するのかもしれない。
 次の駅は、二俣川駅。言わずと知れた有名な拠点駅である。相鉄の特急をはじめすべての電車が止まる超巨大駅である。自動車免許試験センターもあり、新たに駅一体型のマンションが建設されていて、まさに利便性の高い街並みだ。新しい街と古い街が見事に融合されている。生活環境の整った明るい街であり、さらにこれからも目が離せない街や駅である。
 さあここから、相鉄いずみの線である。二俣川の駅の由来のとおり、海老名方面へ行く路線と湘南台方面へ行く路線へと別れる。まさに二俣なのだ。相鉄いずみの線はここからトンネルが多くなります。
 新しくなった駅周辺と街並みを備えた、南万騎が原駅を超え、緑園都市駅。この、緑園都市駅。昔の周辺写真を見るとまさに山を切り開いた間にできた新たしい希望と明るさのある街である。その名の通り、緑豊かな都市で、フェリス女子大学もあり、多くの高級住宅もあり、たくさんの店もある一大学園都市である。駅には目の保養ができる庭園展望室があり、かなりおしゃれな駅である。これで温泉でもあれば最高なのですが、と思うのは私だけでしょうか。残念ながらまだないようです。温泉設置していただけると、温泉設置駅として、さらに相鉄も有名になるのかもしれないと思います。余談です。あくまでも余談です。
 相鉄いずみの線の次の駅は弥生台駅です。この弥生台駅を過ぎて、特急の止まるいずみ野駅。ここはかつて相鉄線の湘南台駅までが開通していなかった時は、相鉄線の終点駅ということでした。だから複線化されていて特急も止まる。便利な駅なのです。新しくなり、駅の周辺も一変しました。私個人としては、「こ汚い。」いや失礼。古めかしい駅周辺の店が好きでした。確か、駅のすぐ近くに、八百屋さんの隣ぐらいに、名前は忘れましたが、お寿司屋さんがありました。儲ける気のあるのかないのか、わからないような、大将がいつも、大盛りにぎりを出してくれました。ランチもおいしく、何度か通ったことを懐かしく思い出しました。今は跡も形もなくなりました。とても残念。残念と言えば、駅周辺の桜の木も高齢化やその他諸事情で伐採されてしまい、かなりさみしい感じです。桜の季節には道路の両サイドに、満開の桜の花が咲きほこる様子は、実に見事でした。またこんなきれいで艶やかな光景がくることを願っています。
 そして、ついに、待ちに待った。いずみ中央駅に到着です。なんか、あっという間の電車旅行の旅。いやいや通医院と通勤です。
 あと2駅乗ると相鉄の終点駅の湘南台駅なのです。途中のゆめが丘駅。この駅は、多くのCM撮影や映画の撮影に登場するとてもロケーションには最適な駅です。そんな2つの駅に想いをはせて、私はいずみ中央駅で下車します。降りまーす。
 いずみ中央駅に着くまでに車窓からの眺めが特に田園風景になり、通勤のはじめはとても田舎なのかなと心配してしまいました。でも、その不安は即、なくなりました。
 安心してください。横浜市です。政令指定都市です。今全国で20ある政令指定都市なのです。神奈川県には、その政令指定都市が何と横浜市、川崎市、相模原市と3つもあるのです。1つの県で政令指定都市が3つあるのは神奈川県だけですから。しかも人口だって政令指定都市の中でも断トツの1位の人口を誇るのですよ。だから、安心してくださいと申したわけです。
 そんなに昔は存じ上げていませんが、いずみ中央駅もずいぶん新しくなり、とてもきれいになりました。泉区の区役所が近くて、利便性は抜群です。区役所の建物の中には食堂も完備されており、昼は大賑わいです。役所の職員さんのみではなくて、一般の市民にも開放されていますので、ランチタイムにはとても便利です。もちろん駅周辺には、スーパーや薬局、床屋さん、美容室、花屋さんに喫茶店、ファーストフードのお店などたくさんあります。また、横浜市泉区民センターのテアトルファンテがあり地域に根ざした個性ある文化活動のためにさまざまな文化交流が盛んです。
 こんな文化な香りの高い駅で、治療してもらえるなんてとても幸せ。いずみ中央には文化があり、芸術があり、自然があふれています。だからこそ、毎年、泉区のいずみ中央駅地蔵原の水辺、駅前でキャンドルナイトが開催され、多くの横浜市民が水と光と音楽の饗宴文化に触れ合う催事を開催しているのかとわかるのです。本当にきれいで素晴らしいです。日曜日など、地蔵原の周辺には多くの子供や親子連れがたくさん来ます。春には、桜もきれいだし、季節を問わずカワセミが池に来るのです。とても珍しいです。そのためたくさんの写真家もシャッターチャンスをねらってあっまってきているようです。カワセミはとてもきれいで、もし見ることがあれば本当にラッキーな1日となることでしょう。
 眼科の治療も終わり、無事にアレルギー性の眼も治りました。眼科に通うこともなくなりました。ひどくならず一安心。流石、行列のできるだけの眼科の先生です。思えば、朝早く8時前にいずみ中央の駅についてもいつも1番ではなかった。「一体何時に来ればいいのか。」と思ったほどでした。番号札をいただき、茶店で一休み。その番号札をもらうのがこの眼科の診察の順番ポイントだったのです。あっという間の通院でしたが、行列のできる眼科なんて見たことなかったので。本当に驚いた日々が懐かしく思い出されました。先生ありがとうございました。ただ勤務地もいずみ中央駅で下車なので、いずみ中央ひかり眼科を毎日横目で見ながらの通勤には変わりないのです。さあ、走るぞ、職場へもうダッシュ。
 仕事が終わり星川駅に向かうためいずみ中央駅に着きました。あの行列のできる眼科。いずみ中央ひかり眼科にはまだまだ患者さんらしき姿が見えました。
 先生タフ。職員さん笑顔が素敵でしたよ。凄くよく働く先生だ。いずみ中央の眼の悪い人は大助かりだな。先生、体壊すなよ。なんて、独り言を言いつつ時間をたっぷりかけてゆっくり、ゆっくり地上のホームまでエレべーターでいきました。
 もうそんなに急ぐ気力も疲れでありませんでした。すっかり日も暮れ時計を見ると9時です。業務の多忙さで、ふらふらになり、電車に乗ることだけを楽しみにして帰る帰路。なんか朝にあった出来事さえ、かき消され忘れ去られていた。エレべータ―を待つ間、何やら電車がとおりすぎる快適音が聞こえました。
 地上のホームにつくと電車の車両は後ろ2両ほどが見えていました。「あっつ」あの彼女。そう朝、瞬時にすぎ去ったブルーのスーツーに、ブラックレザーのミニスカート。あの彼女でした。夜に見た彼女の明るさは少し温かみを帯びた暖色系でした。朝の聡明な感じとは一味違い、暖かさを覚えました。なにか、お疲れ様。お帰りなさいというような感じでした。「うー」またもや瞬時に消え去ってしまった。「あー」私がもう少し早くホームに駆け上がっていたら、会えたのに。顔まで見れたのに、残念。無念。
 私は自分の怠惰に怒りを覚えました。常にしっかり、出勤時も退勤時も凛としなければいけないんだ。でなければ、彼女に会う資格がないんだ。自分にそう言い聞かせることで何となく納得してしました。
 今度こそ、次こそ、あのブルーのスーツに身をまとい、ブラックレザーのミニスカートのあの彼女。きっと出会うぞ。そして、ゆっくり顔をみて、話でもできるとしたら話してみたなあ。と。ひとりほくそ笑んでいた自分を新たに発見してしまいました。
 夜空の星と家々の小さな明かりが何ときれいな夜であろうか。

著者

市成洋輝