「ポン太とポン造じいさん」相子

 きらきら光る朝日を受けて、岡津の林は輝いています。今日もいい一日になりそうです。
「あー、気持ちいい。朝のひとっ走りはやめられないなあ」
「じいちゃん、また電車に化けてたのかい。いい加減年なんだから、無理をしちゃダメだよ」
 昔は宵っ張りだったポン造じいさんでしたが、今では早起きになって始発前に走っています。
「何をぬかす、ポン太。じいちゃんを甘く見ちゃいけないなぞ。まだまだ、特急にも負けないんだから」
「そんなの自慢にならないよ。この前特急を追い抜かして、特急を運転していた人間が落ち込んでたってみんなが噂しているよ」
「ハッ、ハッ、ハッ……」
「笑いごとじゃないよ」
「そんなに怒るなよ。おれのじいさまは、本線が砂利を運んでいた頃からずっと走っていたんだぞ。元気なもんだった」
「だからって……」
「それに、生まれた土地に線路引いてくれたんだ。走らないなんて、バチ当たるぞ」
「いずみ野線は、じいちゃんのために作ったんじゃないよ」
「そうかあ? でも、作るの大変だったんだぞ」
「……」
「モグラのモグ平じいさんと手下たちが、夜な夜なトンネルを掘ったんだ」
「え? トンネルは人間が機械で掘ったんじゃないの」
「そりゃあ人間も掘ったさ。でも、それだけじゃ時間がかかるばかりだ。トンネル工事はモグラに限る」
「本当かなあ」
「本当だとも。じいちゃん嘘をついたことあるか? おまえが生まれる前の話だ。懐かしいなあ」
ポン造じいさんのおじいさんも、モグ平じいさんたちも、別に人間に頼まれた訳でもないのに、人間を真似て遊んでいるうちに人間の役に立っているんだと得意げに話します。
「まあ、相身互いってやつだ」
「そう言えば、この頃モグ平さんたちを見かけないね。どうしたのかな」
「そりゃそうさ。今は‘りにあ’とか言うのを通すトンネル工事に忙しいからな」
「‘りにあ’もモグ平さんたちが手伝っているの?」
「地元のモグラに頼まれたって、張り切ってたぞ」
 ポン造じいさんは鼻息荒く言いました。もしかして‘りにあ’にも化けようと考えているんじゃないかと、ポン太は心配になりました。
「じいちゃん、遠くへ行っちゃ嫌だよ。じいちゃんが居なくなったら寂しいよ」
「大丈夫だ。オレたち一族は相鉄と共に走り続けるんだ。‘りにあ’にまで手が回んないよ。安心しろ」
 ポン造じいさんは、やはり年にはかなわないのでしょうか。さも疲れたように首をこきこきさせると、大きな欠伸をしました。ポン太は後ろに回ると、とんとんとんと、肩たたきを始めました。
「ポン太は優しいなあ。さっきはああ言ったけど、おまえが望むなら、じいちゃんは反対しないぞ。今から研究のために山梨に行ってもいいぞ」
「……」
 ポン太には、そんな気持ちはこれっぽっちもありません。今はタヌキやアナグマ、それにネコや時には人間に飼われているイヌといった友だちと遊んでいるのが一番です。
「やっぱり、ここいらを走っているのがのんびりしていて、いいなあ。それにこれからは東京の線路とも繋がるって言うしな。ポン太が大人になる頃は東京の友だちにも会えるぞ。人間たちも便利になって、喜ぶだろうな」
「じいちゃん、体に気を付けて長生きしておくれよ。線路が繋がったら、一緒に東京見物に行こうね」
「おう、それは楽しみだなあ。でもなあ、あのタヌキの電車、あれにだけは負けられないんだ」
「え、じいちゃんの他にもタヌキの電車があるのかい?」
「なんだおまえ、知らないのか? よく走ってるじゃないか。貧相なしっぽのタヌキの電車が」
「貧相なしっぽ……そんなのあったかな? あっ、そうにゃんとれいんのことか。じいちゃん、あれはタヌキじゃないよ。ネコだよ。そうにゃんていうネコなんだよ」
「そうにゃん? 何だ、あいつネコだったのか。変なヤツだと思ってたんだよ。ネコじゃあしょうがないな。それにしても、ぴいんと立った大きな耳が、おまえにそっくりだよ」
「そんなに似ているかなあ……」
 人間の子どもたちに人気のあるそうにゃんに似ていると言われて、ポン太はうれしくなりました。
 そしてポン造じいさんとポン太は、大笑い。すこし高くなったお日さまも、にこにこ笑っています。
「ところで、ポン子は何処行ったんだ」
「ねえさんかい。女の人に化けて、‘ふぇりす’に行った」
「またか。飽きないやつだなあ。おまえは行かないのか」
「あそこは女じゃないとだめなんだ。ぼくは小学校に通っているよ。宿題もたくさん出て、なかなか大変なんだ」
「……、ぐー」
「あれ、じいちゃん? 何だ、寝ちゃったんだ。ぼくも早く学校に行かないと」
 人間のみなさん。学校では、ぼくやねえさんと仲良くしてください。そしてそうにゃんとれいんに乗っているみなさん。みなさんが乗っているのは、もしかしたらポン造とれいんかも知れません。でも、大丈夫です。じいちゃんは人間を乗せててる時には安全運転だから。
見分け方を教えます。しっぽです。ポン造じいさんは、ふさふさのしっぽが自慢です。

著者

相子