「住めば都。いずみ野ライフ」湊 南

 いずみ野、知っていますか。
 相鉄沿線住民でもイメージが湧かない人が多いだろうし、少しでも知っている人はほぼ、「いなか」と言うだろう。天気や風向きにより、駅に降り立つと家畜の臭いがするし、駅の南口から徒歩二分で畑である。都会という意味での「都」とは、程遠い。ところが住んでみると、意外と便利で、不動産価格が安い割には「穴場」なのだ。
 そもそも我が家が鶴見から相鉄沿線に移り住んだのは、私が十歳の時、かれこれ四十二年前である。その時は、いずみ野ではなく希望ヶ丘で、移住の理由は、私の小児喘息だった。当時は鶴見を含む京浜工業地帯は公害による大気汚染が酷く、こどもだった私が小児喘息に罹り、空気の良い土地を求めたのだ。当時、母は正直なところ、「こんないなかに引っ込むなんて。こどもの為に仕方がないけれど」と思ったそうである。
 それ以来四十二年間、場所は変わったものの相鉄沿線に住み続け、八十歳になった母は、この地で生涯を終えることになるだろう。私は地元の希望ヶ丘高校で学び、大学と最初の就職の間は都内に住んだが、十年足らずで実家に戻った。
 父が病気で早くに亡くなり、私は三十代半ばで家を購入したが、相鉄沿線しか考えることができなかった。自分の力だけで購入すること、性格的に多額のローンに耐えられないこと、生まれ育った横浜市にこだわる気持ちが強く、比較的安く土地勘もある相鉄沿線は打って付けだった。また、私の小児喘息は引っ越して治ったが、その数年後に今度は母が喘息になり、空気の良い土地でないと駄目だった。私の勤務地もみなとみらいになり、通勤にも問題がなかった。
 金銭的に希望ヶ丘では難しく、更に奥のいずみ野の中古物件を選んだ。とは言え、譲らなかった条件が3点ある。
①駅に近い、②日当たりが良い、③環境が良い
住まいを選ぶ際に重視する項目は人によって違うが、母が長年の喘息だったので、③については、大きい道路に面していない、緑が豊か、空気が良い点を押えた。加えて、決して水害にならないことも重要だ。
 間取りの広さは二の次だったが、結果的にはファミリータイプを買うことができた。家族世帯が中心の方が、住むにはやはり安心だ。私が独身なのに矛盾するが、一般論としてはそう思う。
 そしてこれらが、後に一層重要性を帯びたのだった。母が要介護状態になり、車椅子に乗るようになってからは、近くで用が足せるというのは、大きかった。駅に近いということは、スーパーや店舗、病院や美容院も近いということである。私が代わりに用事をやることも多いが、やはり母は自分でできることは自分でやりたがるし、なるべく自分でやらせることは、大事なことである。日当たりが良く、窓から見える景色が緑豊かで、春は桜、秋は紅葉が堪能できる。一日中家の中にいる母にとって、そのことは自由に外出できる人よりもずっと大きな意味を持つ。
 実際に住み続けるうちに、市内でも有数の治安のいいエリアだということもわかってきた。更に、東日本大震災の後に、近隣一帯は地盤が良く頑丈だということがクローズアップされた。地盤の良さは購入時に全く気にしていなかったのだが、良いに越したことはない。
 これだけの条件が揃っている割に不動産価格が低かった理由は、立地が穴場だったからだ。いずみ野はイメージ的に、不便である。確かに都心まで出るのは時間が掛かるが、
「イメージよりは交通アクセスがいい」
とは、よく言われる。また、不便なだけでなく、寂れた駅でもあった。そうでなければ、①駅に近い、②日当たりが良い、③環境が良い、④治安が良い、⑤地盤が良い
マンションは、とても私には買えなかった。
 不便で寂れたなりに快適に暮していたら、昨今更に便利になった。相鉄ローゼンと八百屋や肉屋等数軒のみだった「いずみ野駅前」が再開発され、ショッピングモールが建設されたのだ。ホームセンターまで入り、日用品は特にこだわらなければここで間に合う。また、薬局や百円ショップもできて、車椅子で近所しか行かれなくなった母も、商品を見ながら選べるようになり、生きがいとなった。介護の拠点である「地域ケアプラザ」が新規開設されたのも、心強い。
 各駅停車以外に特急電車も停まるようになり、路線自体も西谷から都心に直通乗り入れになる。つまり、更に2点追加されたのだ。
⑥買い物が便利、⑦それなりの交通利便性
購入時には全く予測していなかったことだ。
項目ごとに説明してきたが、それでは伝えきれない魅力もある。平日は都会の「みなとみらい」で働き、休日は緑豊かな「いずみ野」で、天気の良い日は富士山に連なる山々を眺めながら、建物も人通りもゆったりとした空間で、心の底からリラックスできる。また、横浜市立図書館が地元にあることも、私には幸運で、日常的に利用している。
 難点を言えば、相変わらず、天気や風向きによって、家畜の臭いがすることと、冬が寒いことだ。これも、農業・畜産業が盛んな為と、標高が高く密集していないからだと、なるべく前向きに捉えることにしよう。
 住めば都の、いずみ野ライフ。転居を考えている方、通勤等の問題がなければ、いずみ野を選択肢に入れては如何でしょうか。

著者

湊 南