「僕と俺の想い出」本多 隆

   一、日記
一九七八年六月二五日(日)曇り時々雨

 今日は二年生の時の同級生、阿部くんと岡本くんと『スターウォーズ』を見に相鉄ムービル(相鉄映画)に行った。
10時に西谷駅で待ち合わせしたのだが、僕は10分遅れてしまった。
まずいなと思ったが、岡本くんだけしか来ていなかった。
30分待っても阿部くんは来ないので、駅の公衆電話から電話したら、まだ家にいた。
やっと11時過ぎの各駅停車で横浜に向かった。
「きっと混んでいるぜ。」と岡本くんが言ったら、阿部くんは申し訳なさそうに黙っていた。
いつもなら3本立てで料金が安い天王町のライオン座で上映されるまで待つのだが、今回は「アメリカで公開されてから、1年も待たされたので、もう待てない。」と満場一致でムービルで観ることに決定した。
横浜駅に着いて、ダイヤモンド地下街を歩いて、出口階段を昇る。
妙なめまいを感じた。
昇りきると見えるはずの相鉄ムービルがなかった。
何度見回してもそれらしい建物はない。
大きなホテルになっていた。
初夏だというのに冬のような寒気を感じた。
それでも、阿部くんがホテルの人に「相鉄ムービルはどこですか?」と聞くと、親切に地図を書いて教えてくれた。
こういうおとなになりたいと心から思った。
地図を見ながら高島屋の裏を通って行った。
ここは物騒で気をつけなければいけないと酒屋の梶本くんから聞いていたが、アベックや女の人など人通りも多く大丈夫だった。
道中、昨年の3月に野中くんと『野球狂の詩』を見た横浜にっかつがなくなっていたのにはびっくりした。
同時上映の『嗚呼花の応援団 役者やのう』には気まずい思いをしたな。
僕達のような健全な中学生が見るものではなかった。
そんなことを思い出しながら、いつしか気持ちが昂ぶったのか、みんな少し駆け足になっていた。
ここには五番街の交番横に前売り券を買ったプレイガイドがあったはずだが、これもなくなっていた。
交番を左手、立ち食い蕎麦屋を右手に見て、地図通りにまっすぐ歩き階段を上ると、相鉄ムービルのビルと映画の看板が徐々に見えてきた。
『スターウォーズ』 『Ⅶフォースの覚醒』と書いてあった。
二本立てか、知らなかったと思って映画館に入った。
チケット売り場に行って、あらかじめ買っていた前売り券を見せたら、おねえさんがなぜか驚いた顔で「申し訳ありませんが、これは使えません。」と言った。
困っていると、後ろに並んでいたおじさんが「よかったら、その前売り券もらえないかな?チケット代は僕が払うから。」と言った。
前売り券を受け取ったおじさんはおねえさんにカードを渡して「おとな1人、中学生3人お願いします。」と言った。
「ありがとうございます。」僕らは大きな声で超弩級の笑顔でおじさんにお礼を言った
今日はつくづくいいおとなに会う日だなと思った。
行列や立ち見を覚悟していたが、指定席らしいので、適当な座席を選んですんなり劇場に入った。
 想像していた以上の映画だった。こんなのどうやって撮影したのだろうと舞台裏が見たくなった。
 ストーリーも雑誌『ロードショー』とか、ドラマ版レコードと違い、二本立てではなかったが、岡本くんも阿部くんも満足していた。
 帰りに西谷商店街の大滝楽器で、サザンオールスターズってバンドの『勝手にシンドバッド』というレコードを買った。
ラジオで聞いて、とても気に入ったので、思い切って買うことにした。
明日学校でみんなに話すのが楽しみだ。

   二、メール
DATE 2015年12月20日(日)
TⅠTLE ご無沙汰
TO 岡本 隆
FROM 恩田武史
「ずいぶん久しぶりだね。
元気でやっているか?
先日、しばらくぶりに相鉄ムービルに行って
『スターウォーズⅦ フォースの覚醒』を観たよ。
そこで、凄く不思議な体験をした。
チケット売り場に並んでいたら、前にいた中学生三人がなにやら困っていて、見ると、『スターウォーズ』の前売り券、これ一作目だぜ、で観ようとしていた!
俺たちは阿部が遅れてきて、あの日観ることができなかったよな。
チケット代と引き換えに貰った前売り券の写真を添付します。
信じられないかもしれないけど、本当の話だよ。

追伸 もうすぐ阿部の命日だね。たまには墓参りにでも行こうよ。」

                   完

著者

本多 隆