「和泉川で脳トレ」牧野君子

 いずみ中央駅を出ると和泉川が流れている。
川沿いの遊歩道には泉区役所から約0・4キロの標識。ならば泉区役所の0キロ地点から歩いてみよう。川を遡ると泉区役所がある。
 天王森泉公園から三・四キロ 泉区役所
の標識。道標と書いてある。
 ここより今来た遊歩道を歩く。
 学校を終えた男子児童が二人、十月の川の
中の飛び石を飛んで遊んでいる。首からケータイをぶら下げて。
 思いつくままに俳句、短歌、詩を作って、
「脳トレ」をしよう。字余り、字足らずは気にしない。

 遊歩道の
 手摺にくもの糸
 西日を浴びて
 キラキラキラ
 有るか無しかの風を受け
 ときおり揺れる
 ゆらゆらゆら

 和泉橋
 親水公園「地蔵原の水辺」
 緑の芝生の中を子供達の遊び用の水が流れている。水に足を浸した女の子が、数メートル離れた友達に水鉄砲を放っている。私などが遊んだ竹筒の形をしている。水鉄砲を撃つ子も狙われている子もキャーキャー歓声をあげている。水鉄砲の水は勢いよく宙を飛ぶが命中はしない。これは双方の想定内なのだろう。

 一木の中の幾枚早紅葉

 落葉が遊歩道に散らばっている。きれいに
掃かれるもよし。自然のままもよし。

 靴に踏む落葉かそけき音たてる

 曙橋
 いずみ中央駅を出ると、最初に出合うこの橋を左手に見ながら歩く。
 穂を出したばかりの薄の一団は、脇目もふらずスマートに立っている。数歩先の一団は熟女あるいは老女の域だろうか。穂をパーッと開ききって、小さな風にも大仰に身を振っている。「カッコつける時期は過ぎたわ~」「若い時は結構気取ってたわ~」と言いながら笑い転げているようだ。
 川の中には巨岩がごろごろ――芸術だろうか。流れを緩めるためだろうか。瀬のところでは音をたて白泡たてて流れて行く。コンクリートの川岸にほんの少しの土を見つけたのか、猫じゃらしが右を向いたり左を向いたり、流れを見ている。
 
 中村橋
 
 秋の日はわが影映す対岸にやあと手を上げ
 二人で歩く

 遊歩道には緑の途切れることがない。けやき。紫式部は細かな紫の実を付けている。さるすべりだろうか、実が生っている。さるすべりに実は生るのだろうか。茶の花だろうか、白い花が咲いている。疎い私には名前がわからない。

 石橋
 泉区役所から約0・8キロの道標。
 桜川公園
 子供達の声。ブランコに乗る少女三人の声。

 川の中の
 巨岩に小さな
 柳の木
 どこかの家元の生花のよう
 ああ
 それにも勝る
 自然の美しさ

 一本の柳のトンネル見上げては歩く吾をみ
 な追い越して行く

 流れの失せて秋草川の幅

 コスモスの花。側にはナント百合が一輪咲いている。他の百合は種を作ろうとしている。
 川へ下りる階段がある。流れがゆるやかなのだろう。

 御蔵橋
 泉区役所から約1・2キロの道標。

 にごりたる川に大きな鯉九匹連みては離れ はなれてはつるむ

 われほどにのろのろ歩く人在らず見慣れた
景色かウォーキングか

関島橋
泉区役所から約1・6キロの道標。
和泉川親水広場

三羽の真鴨
すいすい
泳いでる
足をかいかい動かして

グウェ~グウェ~は
真鴨の声?

中州の
草の中
いっとき
羽根を広げてバタバタバタ 
やっぱり真鴨かな

叢の四羽の真鴨
近付けば
二羽はしずしず水に入り
二羽は臆せず羽繕い

安心したのか
一羽が水から上がってきた

カバンの中の
パンをあげようか
余計なことは
しないでおこう

彼らは沈黙
邪魔しちゃいけない
こっちも沈黙・静止

足で水
掻いて前進!
止めれば
流れに乗って
つーっとバック!

地下鉄の橋梁を潜る。ここでは地上を走っ
ている横浜市営地下鉄ブルーライン。

 草木橋

 萩の花見つけて過ぎる草木橋
 
 川の手摺に小学生のポスターが貼ってある。
「自然を大切に」「きれいな川にしよう」など。下飯田駅まで300メートルの標識。ところどころに丸い石の椅子がある。文字に表すにはむずかしい和泉川の流れる水の音。「春の小川」の歌が浮かぶ。
 一本の垂れ下がったくもの糸に、一枚の枯れ葉が風もないのにくるくるまわっている。
隣りでは七匹のくもが木と木の間に糸を張っている。

 四ツ谷橋
 泉区役所から約2・1キロの道標。
 小高い畑に案山子が立っている。畑には里芋の大きな葉。さつまいもの葉。ビニールを
被っているのは、これからの冬菜だろうか。
 川に迫り出す柿の木にオレンジ色の実が重たそうに垂れている。傘の柄に柿の木の枝を
引き寄せている初老の男性。少年時代の気分だろうか。
 今日の散歩脳トレは、ここまでにしよう。

 菜園の案山子に手を振りユーターン

 和泉川はさらに流れて行く。「もっとおいでよ!」と言いながら。

著者

牧野君子