「夢のネイビーブルー」西原邦明

 夢を見た。夜のホームで電車を待っている自分。他に待っている人の姿はない。
 しばらくして、ゴーと音が近づいてきてホームに電車が入ってきた。濃紺色の電車だった。濃紺の車体はホームの明かりに照らされ美しく輝いていた。上り
 「これがリニューアルした9000系だな。」とまじまじと見つめた。
電車が止まりドアが開く。モノトーンで統一され、現代的でシャープな車内に乗客は一人もいなかった。回送列車に間違って乗ってしまったなと思った時、電車のドアが閉まった。
 不思議に焦る気持ちは起こらず、「この電車はどこへ行くのだろう。」と好奇心が芽ばえた。
 ゴトンとひと揺れして電車は動き出した。次第に速度が増して、ホームの景色が横に流れていった。電車はホームを出ると急な上りとなり、それが平坦に戻ると窓の外は濃紺の世界に満天の星で、星たちはニコニコ輝いていた。
 星は遠いので電車が速く走っていても、付かず離れず同じ場所に見える。しばらくは星に見とれていたが、少し飽きて車内に意識を移した。
 相変わらず車内に人の姿はないが、耳を澄ますと、電車の走行音の他に微かに笛の音が聞こえることに気がついた。不思議に思って音のする後方の車両へ歩いて行った。
 二両分歩くと、人影はないが音が大きくなり更に音源に近づくと、つり革の手で捕まるところに小人が座って横笛を奏でていた。こちらは驚いたが、小人は我関せずと演奏を続けている。
 この曲は聞き覚えがある。そうだ、いきものがかりの楽曲で「ラブソングは止まらないよ」のメロディーだ。物寂しくも強い愛情が感じられ、励まされる曲だ。
 曲が終盤になり、何やら美味しそうな匂いがしてきた。どうも後方の車両のようだ。私は演奏を最後まで聞かず後方の車両へ向かった。
 そこには小人たちがたくさんいて、シウマイを蒸したり、そばを茹でたりしていた。鰹出汁に醤油ベースのそば汁が食欲を誘う。早速そばを注文すると小人は丼に茹でたそばと蒸し上がったシウマイ5個を盛り汁をかけてこちらに寄こした。300円、小人に渡す。お釣りはないという。
 丼を通して温かみを感じながら、汁をすすりシウマイを1個口に入れた。噛むと肉汁が染み出てきて舌が唸る。
 「これはいける。」と思い、続けてそばを口に運んだ。こちらも美味しくてシウマイとそばを交互に食べた。最後に汁を飲み終えると小人達の姿は消えていた。
 丼を返さなければならないので、最後部の 
車掌室へ向かった。車掌室に車掌の姿はなかった。
 驚いたことに、この電車の後ろにコンテナを積んだ貨車が鈴なりにつながっていた。数えてみると20両くらい繋がっていると思われた。
 色々あって疲れたので、近くの席に座った。窓外の星達は相変わらず一緒に走っている。そういえばこの電車は自分が乗ってからどこの駅にも停車していない。
 かれこれ1時間くらい乗っているだろうかと思ったとき、電車は減速を始め、いくつものポイントを渡って、見知らぬ駅のホームに入った。ホームがいくつもあって、大きな駅だ。
 電車が停車してドアが開いたので、ホームに降りてみた。人の姿はなく、蛍光灯の灯りだけが存在感を出している。
 ホームを先端に向かって歩いて行くと、改札口はなくホテルのロビーに繋がっていた。仕方がないので、紺色のジャケットを着ているフロントの人に事情を話すと「今夜はこのホテルに泊まってください。」と言われた。
 ボーイが現れ、私をエレベータに乗せて9階の部屋へ案内した。部屋の扉には「9702」と銀色で表示されていた。
 ボーイが帰った後、窓から外を見た。街の灯りと船の灯りが見えた。丼をテーブルの上に置いてベッドに倒れ込んだ。紺色の電車のこと、小人のこと、笛の音、そばの味などを思い起こしているうちに眠ってしまった。
 
 目覚めるといつもの自分の部屋だった。不思議な夢を見たなと思いながら周囲を見回すと、テーブルの上の桔梗の花に目が止まった。
「面白かったでしょう?」と桔梗は微笑した。

著者

西原邦明