「感謝」どや

バンッと、ドアを閉めて職場を後にした。今言われたことを何度も頭に浮かべながら、歩く。目の前の後ろ姿を次々追い抜かしていく。駅に向かい、電車を乗り換えて、横浜駅へ。相鉄線の改札口は何ヵ所かある。今日は、一番の近道ではなく、遠回りになる方へ。電車を降りた人の流れに合わせて歩くのではなく、今はこちらだ。それより、JOINUSで、何か食べていこうか。腹が減ってはなんとやら。レストラン案内に向かって、また目の前の後ろ姿をどんどん追い抜かしていく。あっ、杖が目に入った。すこし速度を緩め通りすぎる。それから、また歩く速度をあげる。きっと誰も見てないけど、早く歩くことで、表現中。私、がんばったのに。何で何で。さて、何食べよう。案内板の前で立ち止まる。立ち止まると、またいろいろなことが浮かんでくる。さっきまでの食欲は、どこへやら。レストラン案内から視線を落とす。「おねえさん、元気だね。」声に振り向くと、さきほど追い越した人だった。にっこり笑いかけ、またゆっくりと歩いていく。その後ろ姿を少しの間みていた。案内板に向き直り、お店を決めた。お肉をがっつりのつもりだったけど・・・野菜のたくさんはいったメニューにしよう。残業したから遅い時間だ。体に優しそうなものにしよう。行ったことのあるお店なので、そのまま向きを変えて歩き出す。お店に入り、今日は液晶画面をみないで、食事を待つ。見渡すと、食材の産地が書いてある。作った人の言葉もあり、読んでいく。厨房では食材を生かしたというお料理か作られていることだろう。もうすぐ、産地からの人の思いが詰まったお料理が運ばれてくる。私の仕事は?私の思いは?どう伝わっているのかな。いつもより、ゆっくりごはんを食べて、改札口へ。前を歩く人を追い抜かすことなく、歩く。列に並んで電車を待つ。見渡すと、大企業の洗練された広告や、地域のイベントのポスター。さまざまな思いがここにもたくさんあることに気づく。表現方法はそれぞれ。見る人によって捉え方もさまざま。美術の絵と、広告の違いってなんだろう。どこかで習った気もするけど、改めて考える。今日は、いろいろ考える日だな。静かに入ってきた電車。あたりまえのように思っているけど、昔の電車は、ガタンゴトンと表現されていたから、技術の進歩、ということは、長年の電車にかける人々の思いが、ここにもあるんだな。運転手さんは、見習い期間を経て、日々運転されていることでしょう。先輩に怒られたりしながら、でも、経験を積んでいくことでしょう。先輩は自分の経験から、怒ることもあれば、誉めることもある。さらに先輩がしてきたように。思いをつないでいるんだね。駅員さんはいったい何人いらっしゃるのだろう。いろいろな場所にいらっしゃる。乗客の見えないところにも。夜になると、電車や線路の整備や工事をしてらっしゃるんだよね。空気のように見えていなかったことがいっぱいある。ドアが開き、電車に乗り込む。電車のなかには、仕事帰りの人がいっぱい。1日、どんな仕事をしたのかな。どんな職場で働いているのかな。私みたいに事務所を飛び出したことあるかな。なんだか人を見るのが楽しくなってきた。電車が走り出す。窓からは、ランドマークタワーが目印のみなとみらいのあかり。少し前に事務所を飛び出した時は、景色なんてみてなかったな。「おねえさん、元気だね」と声を掛けていただいたことに感謝。笑いかけていただいたことに感謝。人生の大先輩、ありがとうございます。よし、明日またがんばるぞ。電車は、カーブを曲がり、今度は反対側にみなとみらいのあかり。そしてだんだん小さくなる。さあ、帰ろう。

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どや