「旅立ち」春風 愛

 朝の光の中、私は、ベットから、ゆっくりと起き上った。窓を開けると、青い空が広がっている。一階のリビングに降りた。朝食は、いつも、クロワッサンとコーヒー、そしてバナナと決まっている。
 私の名前は、井上由紀子、フェリス女学院大学の英語英米文学科の三年生です。
家族は、四人です。祖父と祖母と母。母は、高校の英語の教師をしています。それと、そう太郎という猫が一匹です。
そう太郎は、電車が、大好きで、窓から、通っていく電車を毎日見ています。
 住んでいる所は相鉄線の希望が丘です。
希望が丘という駅名は、戦後、相鉄線が住宅地区開発を始め「明るい未来を目指す」という願いを込めて、一般公募で決定したらしい。
私この駅名、好きです。
 今日は、大学の講義が、午後からなので、午前中、相鉄線で、横浜に行き、西口の地下街を通り、専門書が充実している本屋さんに寄ってから大学に行く予定です。
そして本屋さんに着いて、語学書を探していると、高校の同級生の伊藤君(伊藤悟)と、ばったり会った。「久しぶり。元気だった。」「久しぶりだね。今度、同窓会があるらしいよ。」
「えっ本当。美果(中村美果)に連絡してみるね。」
 二週間後、高校の同窓会の案内の葉書が届いた。
「横浜駅西口にある、あのシェラトンホテルで行われる、すごい。」由紀子は驚いた。
そして、美果に、早速連絡して、二人とも、出席する事にした。
伊藤君は、友達の山口君(山口明)とで出席する事になった。伊藤君は、横浜国立大学の経済学部で、山口君は、神奈川大学の経済学部に通っている。美果は、神奈川大学の国際文化交流学科です。
 日曜日、私は、母と、同窓会に来て行く洋服を購入するため、横浜へ出掛けた。
西口の高島屋を見たり、ルミネなどを見て、一時間位捜して、何とか好きな洋服が見つかった。
私と母が出掛けた時は、ランチはいつも、決まってベイクウォーターに行く途中、資生堂パーラーだった。私と母は、性格は、合う方である。
会話も、弾み、楽しい時間を過した。
 いよいよ、同窓会の日になりました。
たまには、正装してみるのも良いかも。
緊張してしまいます。母は、「よく似合うわよ。素敵。楽しんで行って来てね。」と笑顔で送り出してくれた。
 美果と、横浜高島屋の正面入り口で待ち合わせて、一緒に行った。
ホテルの中に入ると、受付があり、伊藤君と山口君の姿が見えた。声を掛けて、四人で色々な話しで、盛り上がった。色々な友達と久しぶりに会って楽しい時間を過した。
私たち四人は、その後、ホテル内のカフェでお茶をした。由紀子は「皆、あんまり変わってなかったね。懐かしかった。私たちも変わってないかも。中身が幼いから。」笑って吹き出した。
 伊藤君は「今度、ぼくの自宅に皆来ないか?焼肉パーティーでもしようよ。
天王町に、一人でアパートに住んでいるんだ。二週間後の土曜日の夜にしようか。」
皆は賛成して、その日は、解散した。  
 二週間後、三人は、伊藤君の家に行った。
皆でスーパーに買い物をして、材料を用意した。「伊藤君が、うらやましいなぁ、一人で生活って、自由で、あこがれてしまう」と由紀子が言った。山口君は、「でも一人で食事も寂しいと思う。自分で全部やらなくてはならないし。大変でしょ。」美香は「私も就職したら一人で、生活するかも。」
焼肉の準備して、皆でわいわい楽しく、食べ始めた。話が盛り上がっていると、伊藤君が  
「就職したら、ずっと一人で生活するかも。」と言った。「えっ何故?」由紀子が言うと、「僕の実家の母は父が再婚した人なんだ。本当の母は、三歳の時に亡くなっているんだ。」「そうなの、寂しかったね。」
今度は、美香が「実は、両親が別居中で、祖母と母と今、三人で暮らしてる。色々問題があってね、嫌になる。」山口君は「僕は、実家が、不動産で、強引に継がされそうだし、僕は、やりたいことがあるのに。」
由紀子は「私は、悩みない方なんだね。大変なのね。でも父がいなかったから、寂しかったけど。
皆、将来どうするの。私、語学を生かして、
商社に入りたいの。」伊藤君は「僕は銀行かな。将来、結婚して、家族を持ちたいし。」
美果は「将来、外国で、仕事に就きたいと思ってる。どうかな。」山口君は、「百貨店で働いて海外へ行くつもりなんだ。」
四人は、それぞれ悩みを、話したり、将来の事などを話して、楽しい時間を過した。そしてその日、帰りが遅くなったので、伊藤君は、由紀子を、山口君は、美果を送っていく事になった。
 伊藤君は、実家が希望が丘なので、帰りに少し寄るらしい。由紀子と二人で、歩いていると伊藤君に「これから、僕と付き合ってほしい。」と言われた。由紀子は「よろしくお願いします。」と言って、由紀子の家の前まで来た。「またね、さようなら。」と言って、別れた。
 山口君は、星川駅に住んでいて、美果は二俣川駅に住んでいる。
山口君は「今、相鉄線って凄いね。今度、東京まで直通で行けるんだよ。便利になるね。開発中だけど、画期的な事だよね。」美果は「二俣川も、今、すごい工事やっていて、再開発やっているのよ。変わるわよね、沿線も、街も、人々の生活も、楽しみだね。」
「今度、また四人で、食事しましょう。」と言って別れた。
 
 六月に入った。伊藤君と、由紀子は、横浜ズーラシア動物園に出掛けた。由紀子がオカピを見に行く事を希望したからだ。三ツ境から、バスで十五分位で、緑がいっぱいで、広々としている。手作りのお弁当を持ってきて、二人で食べていると、「夏休みどうするの。」と由紀子は言った。「僕は、親戚が営んでいる、伊豆の民宿の手伝いに行くつもりなんだ。」「私は、イギリスに、一週間行く予定なの。来年は就活だから、最後の自由な時間に思い出を作ろうかと思い、母は、賛成してくれたの。」
「良いな、イギリスか。リッチだね。」「母が少し援助してくれるみたい。」「気を付けて行っ来てね。」二人は、夕食を食べた。帰りは、また送ってくれた。二人は手を繋いだ。
公園でずっとブランコに座っていた。
「今度、会うのはイギリスから、帰ってからだね。」
「そうしたら、今度、私の家に、遊びに来てね。そう太郎という猫がいて、可愛いの。」
「元気でね。連絡してね。」「わかった。またね。」二人は手を振って別れた。

 大学の夏休みに入った。イギリス行きまで、一週間になった。準備も忙しくなり、美果とも、打ち合わせした。ツアーじゃなくて、二人で行く予定だ。
一度、由紀子は、母親と行っているので、少しは自信があった。そして、いよいよ出発の日がやって来た。母は心配して「大丈夫。ツアーの方が良かったんじゃない?」
「平気、大丈夫。わからなかったらポリスに聞くから。航空会社とかホテルとかに。着いたら連絡します。」「行ってらっしゃい。」
 美果と横浜の西口で、待ち合わせた。
羽田まで、バスで行く事にした。
イギリスは、今回、ロンドンだけにした。
 イギリスに無事到着した。ホテルまで行こうとしたら、空港で、ばったり、由紀子の大学の教授の山本先生(山本浩二)に会った。「先生、どうしてこちらに。」
聞くと「僕は毎年大学の夏休みに来ているんです。長い間イギリスに留学していました。もし良かったら、案内しますよ。」と言ってくれた。由紀子は「ラッキー。ありがとうございます。実は少し不安でした。」
 「ロンドンでは、国会議事堂の「ビッグベン」時計塔だね。テムズ川を渡る橋からの景色は最高ですよ。バッキンガム宮殿も素晴らしいね。僕の留学先は、オックスフォード大学だった。構内を散策しましょう。明日、行ってみようね。今日、もう遅いからホテルまで送ってあげるよ。」「ありがとうございます。」と言ってホテルの前で、別れた。そして明日、十時にホテルで待ち合わせる事になった。

 次の日の朝、山本先生は、ホテルのロビーで待っていてくれた。美果も「すっかり安心して、良かった。少し心配だったのよね。」
今日は、僕が、イギリスの魅力たっぷりの場所を案内します。そして行きつけのお店でランチをしましょう。先生は、車で案内してくれた。楽しかった。夢のような時間だった。  
 次の日、先生のマナーハウスに行った。
そこは、上等な絨毯が敷かれていて、素敵なソファーが、置いてあった。暖炉の上に絵が、飾ってあり、由紀子と美果は、感動していた。
本棚には、沢山の本があり、先生のシェイクスピアに関する研究は、有名である。
そして、ケーキを、先生に渡した。先生は紅茶を用意するので、待っていてと言って、キッチンの方へ行った。
 由紀子は、部屋を見回した。窓辺の小さいテーブルの上に、写真がいくつか置いてあり、その中に、先生の大学時代に写した写真の中に、母が写っていた。
びっくりした。先生と母、大学が同じだったんだ。先生は戻ってきて、紅茶を入れてくれた。「私、いちごのケーキ、大好きなんです。」と由紀子が言うと、先生は、「実は、僕も大好きなんですよ。」美果は「私、チョコレートが好きです。」
 先生は、留学した時の事を話してくれた。私たちの将来の夢などを話して会話が弾み、由紀子は「先生、私の母と同じ大学なのですね。」「僕は慶応大学で、サークルが一緒だった。あの、そう言えば、井上さんのお母さんは、お元気ですか。」「はい。今、高校の英語の先生をしています。私、父がいないので、祖父と祖母と母と四人で暮らしています。あっ、そう太郎という猫も。電車が大好きで、可愛いのです。」
そろそろ、ホテルに帰る時間になり、先生はホテルまで、送ってくれた。
 明日、日本へ帰る予定だ。
先生は、また空港まで、送ってくれた。
「ありがとうございました。お世話になりました。」
そして、無事に、日本に着いた。

 帰国後、由紀子は、母にイギリスで大学の山本先生に、すっかりお世話になったことを話した。「良かったわね。心配していたから、助かった。先生にお礼を言わなくては。」とそれ以上話しをしなかった。
由紀子は、母が何か隠している様子がわかった。由紀子も聞かなかった。
 それから二週間後、山本先生から由紀子の母恵子に連絡があり、二人は会うことになった。シェラトンホテルのカフェで一時に約束した。
ホテルに着き、山本先生は待っていた。
「本当に久しぶりですね。お元気でしたか。」
「僕は今フェリス大学の教授をしています。」「私は、英語教師を続けています。先日は娘がイギリスでお世話になりました。ありがとうございました。」
山本先生は急に「懐かしいなあ、恵子さん変わらないなあ。由紀子さんは良いお嬢さんですね」と言った。
「ええ、私、一生懸命育てましたから。」
由紀子の母は少しうつむいて言った。「実は由紀子はあなたの娘です。」「それは、どういう事。」「あなたには知らせなかった。あなたは、留学も決まっていたし、将来の道を成功の道を邪魔したくなかった。そして、私は、一人で育てる決心をしました。」
「何で、知らせてくれなかった。驚いた。許して欲しい。今まで苦労を掛けてすまなかった。」山本先生は頭を下げた。
「これからはあなたを一生守っていきます。何でも相談してください。」と言った。
由紀子の母は泣いていた。そして、二人はその後、お茶を飲み、別れた。

 夏休みは終わり、大学も始まった。
 同級生の美果から、ランチの誘いがあったので、海老名のららぽーとに出掛けた。
「今、海老名、発展しているね。買い物、便利だし、住みやすそうだね。」美果が「この前、由紀子のお母さん、山本先生と会っていたのを見たよ。シェラトンホテルで。」「えっそう。この前のお礼か何かでしょ。」と由紀子はちょっと不思議だった。
 家に帰ると、母に、由紀子は「ホテルのカフェで会っていたの?」と尋ねた。「えっ。」ちょっと焦っていたみたいだった。
「由紀子のこの前のイギリスのお礼をしたの。」「あ、そうか。それなら良いけど。」
「母と先生、大学が同じで、話が楽しかった。何年振りかしら。懐かしかった。」
ちょっと嬉しそうだった。
由紀子は自分の部屋へ行った。
「お母さん、もう少し大学時代の話をしてくれるのかなと思ったけど、何か隠している様子だった。」
もう一度聞いてみようと思った。
 横浜に母と出掛けた。
イチョウ並木が紅葉して美しかった。母と私はニューグランドホテルで食事をした。
母の誕生日だったからだ。
その帰り、山下公園に行った。
そして、母は話し始めた。「由紀子驚かないで聞いてね。実はね、あの山本先生とは、恋人同士だった。愛し合っていた。結婚したかった。でも、彼は、イギリスへ留学する夢があった。
私は諦めた。彼の成功の邪魔をすることはできなかった。そして私たちは別れた。
彼はイギリスのオックスフォード大学へ留学するために出発した。私は英語の教師になった。でもお腹に赤ちゃんが出来ていた。それはあなたなの。ごめんね。許してほしい。」
由紀子は本当に驚いて、言葉が出なかった。そして、そのまま走って、電車に乗り、天王町の伊藤君のアパートの前に立っていた。伊藤君が、ちょうど出掛けようとしていた時だった。びっくりして「どうしたの。イギリスから帰ったんだね。良かった、会いたかった。僕も伊豆に行っていたから。それで、どうしたの?
部屋に入る?どうぞ。お茶でも入れるよ。」
「ごめんね、急に来て。実はね、大学の山本先生、私のお父さんだった。」「えっそれ何?」
「母は、大学の同級生で、昔、恋人同士だった。そして先生は、留学して、私の事は、知らなかったみたい。母は、一人で育てるつもりだったらしい。私、ショックで、どうにかなりそう。今日は、家に帰りたくない。泊めてくれる?」「いいよ。午後から、大学だから帰ったら夕食を食べよう。部屋で待っていてね。」「はい、わかりました。」
伊藤君は、心配すると、いけないので、由紀子の実家に連絡した。
そして、夕食を食べて、テレビを見て、ワインなどを飲んで、伊藤君はぐっすり寝てしまった。
 次の朝、由紀子は、大学を休んで、伊藤君と大桟橋に海を見に行った。ちょうど外国船が停まっていた。「この船で外国へ一緒に行きたいね。生きていると色々な事があるよね。元気だして。中華街でも食事をしようか。」そして二人は散策して元町を通って横浜駅に戻り「私そろそろ帰る。ごめんね、色々ありがとう。」
そして由紀子が帰ると、母は仕事からまだ帰ってなかった。
祖母が居て「由紀ちゃん、お母さん心配していたよ。お母さんの事、許してあげて。大変だったんだから。そして由紀ちゃんがいて、本当に良かったと思っている。」と言われた。
 
 次の日の夜、同級生の四人は、集まった。
由紀子の話しを聞いた。「それは大変だったね。」でも生きていると問題は、誰もが抱えていて、なんとか乗り越えて生きて行っている事など話しをし合った。
 由紀子は、少しずつ、許す事に、気持ちが変わっていった。
 そして、母と夜、話し合った。
「由紀ちゃん、ごめんね。私を許してほしい。本当に、悪かった。あなたに寂しい思いをさせてしまって。」涙をいっぱいためて、話していた。「いいの、私、平気。今まで幸せだったし、素敵な家族もいたし、私、お母さんと仲良く、これからも、やって行くから。」
「ありがとう。」私の手を握って、よろしくね、これからも。
 一週間後、由紀子は、先生と会った。「山本先生、先日、イギリスでは、ありがとうございました。」先生は「イギリス、楽しめて良かった。お母さんの事、本当に申し訳なかった。由紀子さん、どうしたら良いかと思っている。でも、僕は今でも、お母さんを愛している。これから幸せにしたいと思う。大切に思っている。由紀子さん、僕の娘だったんですね。」頭を深々と下げた。
由紀子は「母をよろしくお願いします。」と言って、その場を立ち去った。
 由紀子は、そのまま自宅へ帰らず、ベイクウォーターから、海を見ていた。
伊藤君に連絡した。そして話しをした。
「元気だせよ。世の中色々あるから、僕なんか本当の母親は、もういないし、お母さんと先生を許してあげれば。」「そうする。私たちこれから問題もたくさん出てくるかもね。でも乗り越えて希望を持って生きて行かなくちゃね。来年は就活だから、がんばろうね。」と言って別れた。

 四月に入った。瀬谷駅北口から歩いて二十分位の所に、桜の名所の海軍道路がある。すごく美しい桜並木があり、有名である。
 四人はお花見に出掛けた。満開だった。
「就活スタートしたね。皆どう?」「大変だよ。2回目の試験で落とされたり、なかなかね。そのうち、どこか受かると思うけど。精神的にしんどいよね。」

そして、半年が過ぎ、第一希望は、無理だった。皆それぞれ色々受けて、なんとか受かり本当に大変だった。四人それぞれ、入社が決まった。
 横浜西口のシェラトンホテルで、お祝いすることになった。山口君が「おめでとう。皆決まって良かったね。」ワインで乾杯した。
 伊藤君は「これからは、自分で、責任を持って、一人前の社会人として生きて行くんだね。それぞれ、悩みや、問題を抱えていても、希望を持って、前に進まないとね。」
 由紀子は「私たち、皆、輝ける未来に向けてがんばりましょう。」と言った。
 四人は無事に大学を卒業し、社会人としてスタートする事になった。「今度、相鉄が、東京まで直通になる。相鉄とJR直通線(西谷から羽沢)が2019年度夏季に、相鉄と東急直通線(羽沢から日吉)は、2022年度夏季に開業予定と決まったらしい。
凄く便利になるね。通勤、通学も時間短縮になり、沿線の街も変わって行くね。」と伊藤君が言った。
由紀子は「画期的な事ね。私たち皆の、夢や希望を乗せて、走っていくのね。
輝ける未来へ向かって一緒にスタートです。」
 出発進行、旅立ちの時である。

著者

春風 愛