「映画にポップコーン、歌に芸」石島拓弥

 ふと、春先になると思い出すことがある。

 映画にポップコーン、歌に芸

 まだ大学生の頃、小学校からの友人が相模大塚に一人暮らしをしていた。
 会うのは年に一回あるかないか。そんな友人だが会えば話が弾む。それなのに頻繁に会わなかったのは、今振り返ってみても不思議なことだ。
 少し肌寒い日に久しぶりにした薄着を後悔しながら、相模大塚の駅前で待ち合わせをしたその日も会うのは一年半ぶりだった。
「久しぶり。」
「おう。久しぶり。」
「少し寒いな。」
「寒いな。」
 いつものことだが、最初はあまり会話は弾まない。
お互いの顔色を伺いながら距離感を測り、最初は時事的な話題を、そして、少しずつ立ち入った話をする。
 友人から彼女ができたことを伝えられ、そのことが羨ましかったことを今でも鮮明に思い出せる。
 本題に戻ると、その日、頻繁に会わない友人と一年半ぶりに会った理由は映画を見るためだった。
 当時、私は全国放映ではないような、少しマイナーな邦画を見ることに凝っていて、たまたま見たい映画が友人の住む相模大塚の沿線にある海老名で放映されることを知り、彼をその映画に誘ったのだ。
 最初はぎこちなかった二人も、相模大塚から海老名に移動する車中で肩を並べて話しているうちに過去の距離感を思い出し、周りの邪魔にならないように、少しじゃれ合いながら海老名駅で下車する。
 そんなじゃれあって落ち着きのない二人は映画館についてもいないのにすぐ立ち止まることになった。
 まだまだ肌寒い春先に、タンクトップにハーフパンツ。鉢巻を頭にきつく巻いてアコースティックギターを掻き鳴らす男性がすぐ駅前でマイクもなしに張り裂けんばかりの大声で歌っていたからだ。
 絶叫しているせいか、歌詞は半分も聴き取れない。時々聴こえる言葉は愛の素晴らしさを語っていた。ほとんど歌詞が聴き取れなくとも、必死の形相で歌う彼を私と友人は見守り、彼が
「センキュー」
と絶叫すると力の限り拍手をして、その場を去った。
「すごかったな」
「うん。よくわからないけどすごかった。」
 映画を見る前から、少し浮ついたような足取りになりながらも、当初の目的だった映画は無事みることができた。
 見た映画の内容はよく覚えていない。食べたポップコーンの味のほうが覚えているくらいだ。それでも、見た映画のあそこはもっとこうした方がよかった。ここがつまらなかったと、評論家気取りの二人に話題を提供してくれた。
 ちょうど、映画のクライマックスに関して悪態をつこうとしたときだったと思う。
 一緒になって批判していた友人が少し開けた公園のようなところを過ぎようとしたときに足を止めて、私の袖を引いた。
「見ろよ。手品やってる。」
 彼の指さす方向には、スーツ姿の二人の男性が手のひらで水晶玉を器用にクルクルと回していた。
 強いリズムのバックミュージックに合わせてダンスを踊りながら、二人は水晶玉でジャグリングを始める。それは手品ではなく大道芸だった。
 映画館で食べ残したポップコーンを食べながら、二人とも食い入るように大道芸を見つめる。
 時々、水晶玉やティッシュボックスのような箱を取りこぼしてしまっても、二人は笑顔で
「もう一回チャンスをください。」
と元気な声を上げ、次か何度かのリトライのあとには成功させて見せた。
 失敗しても成功しても笑顔の二人にのせられて、私たちを含めた観客も笑顔になり、音楽に合わせて拍手をする。
すこし年配のおじさんがたまに
「しっかりしろー」
なんて声を上げても、二人は
「ご声援ありがとうございます。」
と笑顔で返し、芸を続けた。
「あの映画、あそこは面白かったよな。」
「うん。続編があるのだとしたら、あの終わり方もあれでよかった気がする。」
 大道芸を堪能した帰り道、大道芸人の二人の笑顔にほだされたのか、辛口評論家気取りは甘口評論家気取りに変身し、見た映画の良いところを探していた。
 肌寒い陽気なのに薄着でギターを掻き鳴らし、汗だくで絶叫していた男性も、ひたすら笑顔で大道芸を続けていた二人の男性も、当時、批判することがかっこいいと勘違いしていた私と友人が全く批判することなく、じっと見つめて楽しんでいた。
 それは、映画と違ってお金を払っていないからだということも理由の一つだったかもしれないが、一生懸命な彼らを見て、少なからず気持ちが高揚し、偉そうではあるが、なんだか優しい気持ちになったのも事実だ。
 
 映画にポップコーン、歌に芸

 それからほどなくして、私は海老名に引っ越し、年に1度も会わなかった友人とは頻繁に会うようになった。
 友人と彼の彼女と三人で海老名で遊び、彼らの結婚報告も海老名で聞いた。
 私は飽きずに映画館通いを続けているが、隣の席に座ってくれる女性は友人の愛娘だけであり、私だけの愛する人にはまだ出会えていない。
 
 映画にポップコーン、歌に芸
 
 あれから十年以上たった今も、海老名でそれを私は感じている。
 隣で一緒にそれ感じてくれる女性にはまだ出会えていない。
 来年、友人は海老名に家を買うらしい。

 映画にポップコーン、歌に芸
 
 当時見た映画の続編が出る。
 友人は子供の行事で行けないらしい。
 勇気を出して、気になる女性を誘ってみよう。

著者

石島拓弥