「晴れ、時々そうにゃん」香山 トシコ

「そうにゃんってさ、鉄道ゆるキャラの中で、一番カワイイよね」
 パパから、十歳の誕生日プレゼントに貰った『そうにゃん』人形を抱えて、颯太は嬉しそうだった。そうにゃんとは、相模鉄道、通称、相鉄線のゆるキャラだ。
 「そうだね」と返事をしながら、ママは他の鉄道ゆるキャラを思い浮かべてみた。
 近くは、京急の『けいきゅん』。湘南モノレールの『しょもたん』。この二人は結構カワイイぞ。京成の『京成パンダ』は、パンダの割にちょっとキモいな。わたらせ渓谷鐡道の、『わ鐡のわっしー』なんて、ぶさカワとでもいうのだろうか、強面で独特の顔面をしている。
「何で、猫なんだろうね」
 そうか、猫だからか!ママは納得した。けいきゅんも、しょもたんも、電車を模っているから、四角いボディなのだ。丸みを帯びている猫のそうにゃんのカワイさには、かなわないのだね。しっぽが、踏切り模様でシマシマなのもいいよね。
 四年生の男の子が、ぬいぐるみを貰って、こんなに喜ぶとは、ママは思っていなかった
けど、そうにゃんは、男の子にも人気なのだったのを思い出した。
 夏休み、『子どもチャレンジ』という横浜市の企画に抽選で当たって、建設中の羽沢トンネルを見学した時だ。こういう企画に応募するのは、十人中九人は男の子だ。そしてほとんどが鉄道好き。
 颯太は、子どもにして、かなりな鉄道マニア、通称『テツ』で、中でも電車に乗るのが好きな『乗りテツ』&写真を撮るのが好きな『撮りテツ』である。
 もっとも、颯太の撮影機材は、デジカメではなく、ニンテンドー3DSというゲーム機のカメラ機能なのだが。
 今までに撮影した写真や動画を、他の男の子たちに見せていたが、そうにゃんの写真はかなり受けていた。特に、そうにゃんがバースデーイベントで、スーパーマリオの変装したやつが。
「相鉄線が、渋谷まで直通になると、便利になるよね!」
 ママは、浮き浮きでトンネルを見学させてもらっていたのに、颯太ときたら、
「相鉄が渋谷まで行ったら、副都心線はどうなるのさ!」などと、可愛げのない質問?を
トンネル工事担当のおじさんにしていたっけ。
「羽沢駅までは相鉄のエリアで、その先は東急のエリアになるようです」
と、おじさんは答えてくれた。トンネルができた後の事は、まだ詳しくは決まっていないようだった。
 が、ママは嬉しい!横浜駅で、改札を出て乗り換えなくても、いいんだよ!
 これで、パパが通勤で、少し楽できる。いや、かなり。パパには、颯太が大人になるまで、まだまだ頑張って働いてもらわないとね。
 ママはゴミゴミした街は苦手だから、出掛けるとしても、横浜ジョイナスまでで、全部、買い物をすませちゃう。普段の買い物なら、そうてつローゼンで十分。相鉄沿線は、便利でちょっとのんびりしてるから、ママの体質に合っているのね。
 そんなママにぴったりの、「そうてつウォーキング」という、いずみ野駅から、公園などをめぐりながら、ゆめが丘駅までゴールするというイベントがあった。
 「参加しようよ」と、パパと颯太を誘ったのに、二人とも「歩くのしんどい」「歩くより、電車に乗りたい」と、やる気無し!
「そうにゃんも来るらしいよ!」とママが言ったのに、
「電車に乗るのに、ボクのそうにゃん連れてくからいいよ」だと! 
 まったく、子どもは親の思う通りにはならない生き物だ。パパもだけど。
 どこかに行きたいから電車に乗るのではなく、電車に乗りたいから乗る。
 それが「乗りテツ」だと分かっているけど、相鉄線は地元なので、しょっちゅう乗っているし、せっかくの休日なので、相鉄「グルメスタンプラリー」をやる事にした。パンフレットに載っているお店で飲食して、スタンプを3個以上集めて応募・抽選に当選すれば、景品がもらえるのだ。
 颯太が生まれるちょっと前からだから、十年以上、上星川に住んでいるけど、パンフに載っているのは、知らないお店がほとんどだった。おしゃれで、美味しそうなお店がいっぱい出ている。今まで、パートだけど仕事しながら、子育てするのに必死で、チェーン店ではないカフェに入るゆとりがママにはなかったのだ。
 今日は家族三人だから、颯太向けの所に行くけど、今度こっそり一人で出かけようっと。 
 上星川駅から相鉄に乗って、いずみ野駅下車。バスに乗らなきゃいけないけど、『相澤良牧場』まで。横浜に牧場があるのは驚きだけど、なんか周りと馴染んでいる。
 颯太は新鮮な牛乳とアイス、ママは、バニラと抹茶のジェラート、パパはプレミアムプリンを食べる。やさしい甘さ。シュークリームやアイスなんかを、お土産に買って帰りたいところだけど、まだまだ電車に乗る予定だから、今日はここまで。
 「また来たいね」とママが言ったら、颯太も「うん」だって。駅からすぐじゃないから、
「行くのめんどう~」とか言うかと思ったけど、美味しいものには、かなわないんだね。
 次のお目当ては、ゆめが丘駅。
 この駅は、駅舎が透明なドーム型になっていて、ママもちょっと気に入っている。緑園都市駅が、「関東の駅百選」になっているけど、颯太も、ゆめが丘駅の方が好きだ。名前もいいよね。ゆめが丘。
 今度は駅から徒歩五分で到着。ベーカリー・レストランの『ファール ニエンテ』だ。
 菜園と庭が一体化したお店は、自然を感じられて、おしゃれな感じ。
 祝日のせいか、けっこう混んでいる。国産小麦を使っているピザを親子三人で食べた。
 石窯で焼かれているから美味しかったね。
 ここでは、お土産にカレーパンを買った。
 うちに帰って食べるのが楽しみだね。
 上星川にはパン屋さんが無い。颯太とママはパンが大好きだから、そこは残念だった。
 それは街の人たちも同じ思いだったようで、
商店街の方々がパン屋さん誘致プロジェクトを作り、活動してくれたおかげで、もうすぐパン屋さんができるのだ!
 しかも、颯太が通う坂本小学校の三年生とコラボして、児童が考案した4つのハートを組み合わせたクローバー型の「絆パン」が販売されるのだという。いいね!
 パン屋さんができれば、上星川いうことなしだったもんね。
 なにせ、パパが大・大・大好きな天然温泉がある! しかも駅前すぐ、ローゼンの中に。帰りがけに『満天の湯』で、ゆっくり温まろうね。パパも温泉で持病の腰痛、癒してね。
 ゆめが丘駅から湘南台駅までひと駅。
 湘南台駅で、地下鉄ブルーラインに乗り換え、横浜駅に行き、上星川まで戻った。
 乗りテツは、電車に乗りたいから、乗る。遠回りして帰るのだ。
 今日は、いずみ野線だったけど、土曜日の明日は、海老名の方まで行こうか。そして、小田急線に乗ろう。それとも、JR相模線がいいかな?
 いろんな鉄道に乗る愉しみ。ママは、乗りテツ颯太という子どもを持つまでは、知らなかった。電車なんて、移動の手段であって、なるべく最短距離で利用していたし。
 今や、ママは、りっぱな『ママ鉄』だ。颯太は、『子鉄』、子どもの鉄道マニアの領域はとっくに超えているような気がするけどね。
 でも、今日一日、マイそうにゃんと一緒だった。ぬいぐるみを抱えて電車に乗るのは、やっぱり「子鉄」か。
 電車の扉の開閉シーンをニンテンドー3DSで撮影するのに夢中になって、危うく、そうにゃんをホームに落とす処だった。
 その時、慌てふためいた颯太に、そうにゃんが、ちょっと笑った気がした。
 明日も晴れるといいね、そうにゃん!
                  終

著者

香山 トシコ