「極上の1日」高野琥珀

 昔の職場で一緒だった男性から分厚い手紙が届いた。

 『綾瀬 極上の一日』
 
 神奈川県の県央にあってまだまだ田園風景が豊かに広がる綾瀬市で、自然を満喫しながら一日散策しませんか。きっと至福の一日となるでしょう。

日時  二〇一七年八月二十三日(日)十一時
集合場所 綾瀬タウン・ヒルズ・ショッピングセンター(以下「綾瀬S C」)正面の店内に(外は暑いので)。
(注)車でおいでの方は綾瀬SCの駐車場に駐車して下さい。相鉄 でおいでの方は、十一時二十分に相鉄「かしわ台」駅改札口 においで下さい。車でお迎えに参ります(同封しましたハガ キで参加/不参加と車or相鉄利用をお知らせ下さい)。

一、まず市の南部を横断している東海道新幹線の、ドクターイエロー (新幹線点検車・ここに写真が付いていたが省略)を見に行きます。 この日はドク黄が見られる数少ないチャンスです。いまやラッキー アイテムのひとつになった黄色い新幹線がよく見える場所にご案 内します(十一時五十分頃)。
二、その帰りに金指ファームで名物アイスクリームを賞味します。
三、食事はイタリアンと寿司が楽しめるユニークなレストラン「バンビ ーノ」で。
四、綾瀬SCに戻り、綾瀬市唯一の大手コーヒーショップ「タリー ズ」で一服。
五、綾瀬SCの駐車場に車をおいて、七キロメートル弱(約一万歩) のウォーキングに出発(十四時半頃)。新しい住宅が建ち並ぶ中 を流れる比留(ひる)川(かわ)に沿って整備された遊歩道の日陰を歩いて行き ます。
六、暑さに少しやられかけた時、幸いにも二,三℃も温度が低いと 思われる「取内(とりうち)の森」の入り口にたどり着きます(森の入口の写 真省略)。登山道のように起伏のある、しかし、間伐材のチップス を敷いてよく手が入っている路を、時には縞(シマ)蛇(ヘビ)がニョロニョロと顔を 出し(私も何回か出く わしましたが、すぐに道を譲ってくれます のでご安心を)、昔は どこでも見られた羽黒(ハグロ)蜻蛉(トンボ)(トンボの写 真 略)が舞い飛ぶ中を、五分ほど進むとい きなり、多少、車の行き 来がある舗装道に出て来ます。まるで、山の中で突然都会に出 くわしたような風景の変わり方に夢から覚めたような不思 議 な感じがすると思います。都会と田舎が混在しているここならで はことだと思います。
七、穂をたわわに実らせた、稲刈り間近の稲田を左に見て再び比 留川沿いに田園地帯を歩きます(稲田の写真略)。豊かな自然が
まだ保たれており、運が良ければ川の小魚を狙う、空飛ぶ宝石、 翡翠(カワセミ)に遭遇できるかも知れません(翡翠(カワセミ)写真略)。ご存じでしょ うが、その鮮やかさは、この世のものとも思われないほどで、これ を見ることができれば、まさに「眼福」の極みです(ほぼ毎日この 路を歩いている私は月に二回程の割で遭遇していますが、特に夏 場の今ならもっとチャンスがありますので、期待できます。翡翠(カワセミ)は 市の鳥とか)。
八、田園地帯を抜けると、全国でも珍しい、鉄道の駅を持たない市 のひとつ、綾瀬市(相鉄「かしわ台」駅は実は海老名市です)に停 車もせずに通り過ぎるだけの新幹線のガードをくぐり、折り返 し地点の「落合(おちあい)稲著(いなつき)社(しゃ)」に向かってもうひとがんばりです。
九、この「稲著(いなつき)社(しゃ)」(境内の写真略)は啄木鳥(キツツキ)をはじめいろんな小動 物たちが生息する「落合キツツキの森」の一隅に佇む小さなお 社(やしろ)。穀物の神・蒼(う)稲(かの)魂(みたまの)命(みこと)をお祀(まつ)りしております。このお社 は「キツツキの森」の鎮守の社として、そこに生きている小動物達 を守り、その周りにすむ私たち人間に森の恵みを与え下さって おります。お社は「キツツキの森」の中心にあるので、まわりの 木々の間からの涼風が境内に吹き渡り、汗がいっぺんに引いて、 その心地よさはまるで黄泉の国にたどり着いたよう。天国もかく のごとくかと思われるほどです。耳を澄ませば、啄木鳥(キツツキ)が木を  叩く音が聞こえるかも知れません。お社のご神体にありがたく 参拝いたします。ここで水分を補給し、境内にあるトイレをお借 りして、帰路に備えます。余裕があれば「キツツキの森」の中を散 策したいのですが、これは次回のお楽しみにします。
十、帰り道は基本的に来た道を戻りますが、「取内の森」では森の 奥の別のルートを通ります。昼でも薄暗くひんやりとした空気 を楽しんで下さい。
十一、田園風景を抜けたら、JAさがみの農産物販売所に寄って、 綾瀬の畑で穫れた野菜を求めることも出来ます。
十二、綾瀬SCに戻ったら(十六時半頃)、水分を補給した後、汗を 流しに、かしわ台駅近くの「お風呂の王様・海老名店」に車で向 かいます。
十三、「お風呂の王様」は掛け流しの天然温泉です。中に入ってしま えばそこは「箱根」とちっとも変わらない極楽スーパー銭湯。ゆっ くりと疲れを癒やして下さい。
十四、一時間ほど温泉で癒されたら隣の「コメダ珈琲店」で冷たいア イスコーヒーでもいかがでしょう。
 
 「綾瀬 極上の一日」いかかでしたか。今後も月に一回、この催しを開きたいと思いますので、宜しければまたお越し下さい。

◎ ご用意いただくモノ
 1.長ズボン&長袖のシャツ(日除けと虫除けのため)、帽子、サ ングラス
 2.水
 3.タオル(温泉にも入ります)
4.相鉄ご利用の方は長袖の上着(相鉄はガンガンに冷房をき かせていますので) 」
さて、どうしたものか。なにか怪しい。まず、これを送ってきた男は定年前に退職して、革の鞄を作っているということだった。ずっと独身で結婚したという噂も聞かない、少し怪しい人物である。
 しかし、ハイキングが好きな私としては、この口上手な案内状の中身に少し、いや、かなり惹かれる。そして、この「極楽な」、じゃなくて「極上の」か、そんな場所がこんな近間にあるものだろうか。 それを確かめるには、この迷宮に、ともかく出かけて行く他はないのかも知れない。私はこの怪しい誘いにのって参加のハガキを投函した。
  (了)

著者

高野琥珀