「横浜小説小さな取材紀行」米田淳一

 小説を書いていると、煮詰まることもよくある。特に相鉄小説大賞なんてステキな賞に5本も応募しようとしていたら、当然そうなる。物量作戦? いや、それだけ、私には特別な思いが相鉄線にあるのです。
 なにしろ近場が舞台で、しかも私の大好きな相鉄とその沿線がテーマ。いやが上にも力が入る。肩にも力が入る。そして肩もこる。血圧も上がる。それで結果煮詰まる。
 そこで、そんななか、思った。
「そうだ、横浜行こう」
 まるで某新幹線の会社の「そうだ京都行こう」みたいなノリだけど、相鉄は幸いそれをやってもお財布に優しい。
 というわけで、勤務シフトに空いた時間で相鉄のロケハン、取材旅をすることにしました。ちょうど応募締切一週間前のことである。
 計画を立てるところからすでに楽しいのだが、あえてあまり立てないで行くことにした。ハプニングというか、予想外があればあるほど取材というものは良いのです。すべて予定通りで済むのなら、わざわざ取材に行く意味は無いのです。

 で、出発。
 ところが、いきなりの寝坊である。朝から行くはずなのに昼の出発となった。不安なスタートではあるが、まず神奈中バスで本厚木を目指す。え、本厚木は相鉄じゃない、って? そうだけど、今回は本厚木から新宿の区間の小田急と横浜から大和までの区間の相鉄を対位させたいので、まず本厚木のディテールを確認したかったのです。
 バスを待っている間に気付く。
 正午なのに日がやたら低い。もう冬なんだなあ。
 久々のこういうお出かけですでにゴキゲンであるのだが、ここ数日私、40歳超えてキツい夜更かし仕事が続いているせいか、身体もキツい。
 それでもゴキゲンになっちゃうからなんとかなるのである。というかなんとかするのだ。

 バスを降りて、まず本厚木駅前のマンションを物色。このどれかから主人公は霞ヶ関へ通っているという設定なので、まずキャラ固めに想定される通勤路を歩いてみることに。
 早速よさげな高級マンションを発見。これ分譲でいくらぐらいするんだろうなあ、キャラ的に分譲で買ってるよなあ、と思いながら、あとで不動産の相場を確認することをメモのtodoに書いて、周りの写真をケータイで撮ってメモに添付。しかし高級マンションだなあ。エントランスに豪華なロビーまであるよ。ボンヤリと思っていたイメージにピッタリ。でもこれで書くときに自信を持って書けます。これも取材の大事な効用。
 そこから駅まで歩く。作品の時間、通勤時間帯ではないけど、そこは想像力で補完するとして、歩きながらの風景を頭に入れる。商店街だけど、朝だから開いてる店はほとんどないだろうなあ。でもたぶん電車にも車内販売ないし、駅の売店も乗るはずの小田急の朝の特急の時間帯には開いてないのでは? 主人公、朝ごはんと飲み物どうするのかなあ。
 そう思ったら、ドンピシャで途中にコンビニがありました。うん、ここで主人公は栄養ドリンク買うだろう。ということにしよう。メモに写真をまた添付。脳裏には朝に、慣れた様子でドリンク買って出勤する主人公の姿が浮かんでいます(妄想?)。
 そこから横断歩道を渡って本厚木駅。朝の様子はつい最近の別の用事で知ってるけど、あとからあれっ、という発見がないともいえないので、これもまた念のためにケータイで撮る。
 そして改札からホームへ。ここから主人公はロマンスカー通勤と想定している。いや相鉄の話なのに小田急で良いのか? まあ、ダメならボツでしょう。死して屍拾うものなし。とにかく頑張っていい作品を書くしかないのでそこは考えない。
 途中の相模川鉄橋、海老名の高架橋にも注意を向ける。海老名の高架橋、出来る前は相模線と小田急を繋ぐ線路の跡が残ってたよなあ、って、この話は相鉄の話だっつーの(とセルフツッコミ)。
 そして海老名着。
 小田急ホームから相鉄の電車の見え具合を確認。よく見てる風景だけど、しっかり確認して描写にする。
 そしてホーム待合室で休んでると、そこで待ってるOLさんのかな?「相鉄だと眠れないのよ。横浜まで30分しかないから」という声が偶然聞こえた。当然おいしくゲットさせていただきました。私は通勤で相鉄に乗らないので(もっぱら行楽と用務で乗車)、こういうことはすごく種になります。何気ない雑踏の声からの取材はユーミンがファミレスでやるのと同じ。(ホントカ)。
 ともあれここまでですでに成果が上がってます。

 いよいよ相鉄ホームへの移動。と思ったらその前に。相鉄海老名駅の定期券販売所隣の「そうにゃん」のショップが開いてたので、寄ります。いつも深夜早朝にこの前を通るけど、営業時間外で開いてないので気になってました。
 入ると、おおー! テツゴコロをくすぐるグッズの数々。古い電車の運転台の実物再現も飾ってある。童心に返ってちょっといじってしまったり。これは楽しいー。
 あとプラレールに鉄道模型のBトレインショーティーと鉄道コレクション。うう、欲しすぎる。走らせても持ってるだけでも楽しいんだよね、これ。
 でもそこはぐっと堪えて、新発売の新鋭20000系のハンドタオルを購入。なんだかテレビの「ぶらり途中下車の旅」みたいな展開だぞ。
 お店の人ともちょっとお話しして、ふれあいして、気をよくしていよいよ相鉄乗車。

 ところが、気をよくしすぎて間違えて特急に乗ろうとしてしまう。いかんいかん、横浜にそのまま急いでどうする。それでは取材にならぬ。
 というわけで次の急行に乗ることに。(できれば相鉄乗り降り自由のフリーきっぷが欲しかった……というのは贅沢ですよね)

 乗って下車するのは次のかしわ台駅。今回の作品には出ないけど、でも雰囲気は欲しい。それに私の馴染みの駅だったので。小学校の昔、この駅の近くに住んでたこともありました。
 晩秋だけどやや暖かく、そして風がちょっとある、まさに取材日和。
 車両基地があるけど駅は小さかったかしわ台。駅舎は今工事中。これも出来上がるとおしゃれになるんだろうなあ。
 留置されてる車両がよく見えるのもこの駅の楽しみ。並ぶいろんな電車に相鉄の歴史を見る思いです。
 また、電車の普段見ない床下の台車なんかもよく見える。車輪の外側にでてるブレーキディスクとかいかにも相鉄っぽい。これ、走ってるときにくるくる回ってて面白いのです。よそでこういう台車なかなか無いからねえ。またぐっときます。
 あと、列車が行った後、相鉄の保線員さんが線路を歩いてるのも目撃。こののどかさがいかにも相鉄。どこかホッとする。
 といいつつも反対の下り線の特急が一番線を俊足で通過。このコントラストも良いなあ。

 名残惜しいけどまた電車に乗って相模大塚でホームに。
 代わりに乗り込んできたのは米軍人っぽいガタイのよい荷物いっぱい持った外国人男性。今年で米軍は厚木基地からいなくなっちゃうらしいんだけども、でもまだこんな風景が。これも興味深い。
 駅から見ると、遠くに大和に向かうトンネルが。厚木基地への飛行機の離着陸コースの真下がトンネルになってるんだよね。交通渋滞のニュースで「大和トンネル」がでるたびに、関係ないこっちのトンネルを思い出してしまう私である。
 でも飛行機の離発着はほとんどなかった。基地側でヘリコプターが繰り返し昇ったり降りたり。緊急着陸の訓練だろうなあ。あれ。
 昼下がりの相鉄線、秋晴れで気持ちが良い。
 そうしていると幼稚園バスが駅前を通りかかる。あ、あの幼稚園、私がかつてかよってた幼稚園だ! まだあるんだなあ。この相模大塚にも私住んでたことがある。ちょっと嬉しい。今も変わらず平和な風景だなあ。
 ちなみに私のその幼稚園の頃、初めてのなりたい職業は、この相模大塚駅の前でたこ焼き屋さんをやることだったらしい。たこ焼き焼きながら電車がたっぷり見られるから、と言うのが理由だったという。私も親に言われるまですっかり忘れてました。でも私のことだから言いそうだなあ。その頃から私はすでに鉄道ファン、テツでした……。

 そしてまた電車に乗ります。でも今度の電車はヨコハマネイビーブルーのリニューアル車。実は私、はじめて乗りました。乗ってみると車内はすごくオシャレ。停車案内も大きな液晶パネルで見やすい。インテリアの配色もいい。デザイン切れてるなー。カッコいい。
 でも車内に鏡がある。相鉄の車内と言えば「乗客用の鏡」。何故付いてるかわかんないけど、個人的には便利なので気に入ってるんだよね。ちょっと嬉しい。伝統も残っていてヨイ。ステキなリニューアルです。

 そして大和駅で下車。ここの駅前風景を確認したかった。何度か来たことあるけど、また取材の感覚で見ると違う。広場が「大和なでしこ広場」だった。ほほうと見ると、サッカー日本女子代表「なでしこジャパン」の選手の手形がバス停に飾られていた。これもステキだなあ。
 駅前はかつて地上を通っていた相鉄線が地下になったので、そのあとが広い広場になってる。でも街の建物は線路だった頃とあまり変わらないので、並ぶ銀行も広場に無愛想な壁を向けている。どこかそれも面白い。あと駅前の純喫茶とか「ヤマトギンザ」アーケードとか。その割にデカい再開発ビルも建ってて、なかなか見ただけでこの町の歴史の痕跡がわかって楽しい。って、まるで「ブラタモリ」である……。
 また、相鉄が後援した壁画が飾られてて、同じデザインのコミュニティバスも停まっていた。積極的な街づくりだなあ。
 ここのロータリーの様子がのディテールが欲しかったので、写真を撮って確認。モニュメントの時計塔もありました。大和市制40周年記念にロータリークラブが作ったと銘板にある。これも小説に出したいなあ。
 あと駅ナカに崎陽軒があるのも横浜らしい。これも小説に使えないかな。
 ついでに、小田急の高架駅、ホームの外の壁に窓ガラスがハマってなかった。鉄道模型で作るときの参考になりそう。窓ガラスなくてもいいのか……でもいまは小説の取材―!

 そしてここからは特急でそのまま横浜へワープ。時間がないので。
 横浜駅では駅の柱にある広告サイネージパネルも、相鉄100周年を表示してお祝いしてる。あと相鉄鉄道小説大賞も宣伝中。盛り上がってるなあ。
 相鉄の改札もまたおしゃれになってる。券売機が円を描くように並んでいる。これも時代だなあ。

 ちょっとトイレをここで借りて、そのあとまた電車に乗る、んだけど…….あれっ、これ同じ特急でも湘南台行きだ! というわけで一本待ちます。今回の小説には湘南台方面は出さないので。
 もっと時間あれば乗り比べたいんだけど、それは省略。しかし、今は湘南台行きの特急もあるんですね。私、不勉強でした。
 ちなみに私はテツ、鉄道ファンでも乗り鉄じゃないんです。普段は鉄道模型作るのが好きなので……。

 気を取り直して、16時横浜発海老名行きの特急に乗車。私の小説の主人公はこの列車に乗る予定なのです。
 車内の様子を観察。混みすぎではないのだけど、予定している原稿みたいにあんまり長台詞喋ると目立っちゃうかな。まあ、そこはナントカしよう。
 車窓も観察。いっぱい気付きがあるんだけど全部載せられないのが辛い。あといくつか思い違いしてたのも気付いた。でもそれこそ取材の本義だと思うのです。
 電車の走りっぷりも観察。うう、こんな所でこんなに減速するのか。発見でした。発見探検ぼくの街。

 夕闇が迫る中、列車は二俣川を出て、次は大和に再び到着します、って、まるで「世界の車窓から」みたいだけど、でも相鉄の雰囲気は大手私鉄なのに独特なのですごく楽しい。「相鉄ってどこかホッとするのよね」と私のお勤めの職場に来たご高齢の方にもよく伺うので。それもまた小説のモチーフになると思う。

 そうこうしているうちに大和に着きました。ほとんどのお客さんが降ります。この時間帯はそうだろうなあ。
 大和を再取材しようかと思ったけど、往路でたっぷり集中して取材したので、すっかり疲れてしまってパス。このまま海老名に帰ります。だってこれだけですでにもう整理しきれないほどネタが手に入ったんだもの。やっぱり現場を見るのは大事です。ただ、これを作品に活かせるかどうかが腕だよなあ。それが一番心配。でも電車は座れたので楽に帰れました。

 そして海老名に戻りました。で、小腹が空いたのでちょっとウロウロ。するとなんと、相鉄海老名駅ホームのお蕎麦屋さん、なくなってた……。いや、薄々いつなくなるかと思って心配だったんだけど。なくなってた……ショック。昔は小田急の蕎麦と相鉄の蕎麦、食べ比べできたのに。高校時代何度もお世話になったんだよなあ。ちょっと寂しい。今日の夕餉は仕方なく牛丼にします。でも、締めにコロッケ蕎麦、食べたかったなあ。

 というわけで、さいごに「そうにゃん」のお店にまた寄って、友人にプレゼントする缶バッジを購入。そしてお店の人に軽くこの取材の戦果報告をして、帰りのバスに乗ります。ここで1700時。

 たった5時間の旅だけど、相鉄本線のエッセンスを見られて、気付きも多く、とても楽しかった取材でした。あとは作品に取材で気付いたことを反映し、修正して書くだけ。

 帰りに。海老名の街もどんどん発展していくけど、相鉄が大和などの沿線地域の発展の推進をがんばってるのもよくわかって、良かったなあと。そういういろんな施策も相鉄らしさ、どこかホッとする空気を沿線にも車内にも作っているのかも知れない。
 その歴史と未来を考察して深め、作品に活かそうとまた思うのでした。

 こう改めて考える機会になったのも相鉄鉄道小説大賞のおかげだと思う。
 ステキな機会をありがとう、と思いながら、あともう少し原稿をがんばるのです。
〈了〉

著者

米田淳一