「相鉄線で見た風景」匿名希望

●いずみ野駅にて

ある日の昼下がり、私は泉図書館から家に帰るために相鉄線いずみ野駅の横浜方面行のホームで電車が来るのを待っていた。

きつねの嫁入り・・晴れているのに雨が降っているというおかしな天気の日で、
そのせいかどうかはわからないけれど、いずみ野の駅はとても静かだった。

何気なく向かいの湘南台方面行のホームを見ると、小柄なおばあさんが大柄なおじいさんを乗せた車椅子を押して
ゆっくりと歩いている姿が見えた。

雨に濡れないように、車いすのおじいさんは頭からつま先まですっぽりと黒いポンチョでくるまれていた。

すると不意にポンチョの中からおじいさんの手がのびて、こちら側のホームの上の方を指差した。

鳥でも見つけたのだろうか。それとも雲の切れ間から虹が見えたのだろうか・・

私はおじいさんの指す方向を見てみたけれど、こちらのホームからは何も見えなかった。

おばあさんも車いすを止めておじいさんと一緒に空を指差していた。
そして二人で顔を見合わせて楽しそうに笑っていた。二人はしばらくそうしていた。

きっとこれからも二人は、日々を過ごす中でささやかな事柄を見つけて
互いに笑顔で暮らして行くのだろうな・・と思った。
また、そうあり続けてほしいと願った。

横浜行の電車が来るアナウンスが流れて、私のいるホームに電車が来た。

電車に乗ると、車窓からあの老夫婦の姿が見えた。

電車が動き出してやがて二人とも見えなくなった・・

●二俣川駅から鶴ヶ峰駅にかけての車内にて

ある日の午前8時を少し過ぎたころ、緑園都市から各駅停車横浜行に乗り、座席に座っていたわたしの目の前で
二俣川から乗ってきた男性二人が小競り合いをはじめた。

どういういきさつでそうなったのかは見ていなかったが、電車に乗る際に何かがあって
お互いにイラついているという感じだった。

車内は通勤や通学の途中と思われる人たちが乗っていて、立っている人と人の間に少し隙間があるくらいの
やや混雑した状態だった。

小競り合いはすぐに終わると思っていたが、お互い怒りが収まらなかったのか、
大きな声を出して今にも掴み掛りそうな勢いだったので、見ているこちらがはらはらしたが、
ただ見ていることしかできない状態だった。

車内の空気が張り詰めて、何かが起こってしまいそうな緊張感が漂っていたその時、

「ちょっとぉ、もうやめなさいよ。朝早くから」という声がした。

声をかけたのは小柄で穏やかな雰囲気の、その二人のお母さん世代といった感じの女性だった。

すると二人は一気に力が抜けたような顔になり、ちょっと不満を残しつつという感じだったが
お互い反対の方向にぱっと離れた。

その女性の声のかけ方が、まるでリビングにいるお母さんが子供の兄弟げんかを止めているような
何とものんびりした言い方だったので、張りつめていた車内の空気を一瞬で和やかなものに変えてしまった。

そしてその後、何事もなかったかのように車内はいつもと同じ様子になり、鶴ヶ峰駅に到着した。

●緑園都市駅発から海老名駅まで ~スタンプラリーに参加して~

もう7,8年前のことだが、八月の初め、平日の午前十時ごろ、私はスタンプラリーに参加するために
最寄りの緑園都市駅で乗り降り自由な一日乗車券を買った。

スタンプラリーというと夏休みの子供が対象というイメージがあるけれど、
主婦である私がやっても特に支障はなさそうなので参加することにした。

目的はノベルティの相鉄オリジナルの日本手ぬぐいが欲しかったからだ。

藍染の相鉄全駅の駅名が書いてある粋なデザインの非売品で、
駅のポスターで見かけてどうしても欲しくなってしまった。

これを手に入れるにはスタンプラリーで相鉄線の全駅を制覇しなければならなかった。
しかも期間が限られていて、先着何名様と書いてあったので、
焦りを感じた私はすぐに次の日の朝からスタートすることを決めた。

各停に乗り、一駅一駅スタンプを押して行ったが、スタンプ台にいたのは
お母さんと子ども・お父さんと子ども・おじいちゃんおばあちゃんと孫と思われる組み合わせがほとんどで、
たまに鉄道ファンと思われる男性がスタンプを押していた。

私のように主婦が一人でスタンプラリーに参加するケースは珍しいのかな・・と思っていたら
どこの駅かは忘れてしまったが、ホームで駅員さんと話している女性を見かけた。

ベビーカーに赤ちゃんを乗せていた若いお母さんで、手にはスタンプラリーの台帳を持っていた。

「エレベーターがないので上の改札にあるスタンプが押せない」と言っていた女性に、
「では、私でよろしければ代わりに押してきましょう」という駅員さんの声が聞こえた。
*                   *                  *
スタンプ帳が徐々に埋まっていき、ようやく最後の一駅の海老名駅に到着した。
そこで念願のノベルティの手ぬぐいを手にしたときの私は嬉しさと達成感でいっぱいだった。

猛暑の中、各停に乗り一駅ずつ降りてスタンプを押す作業は、思っていたよりも大変だった。

でもスタンプラリーに参加しなければ相鉄線の全駅に降り立つことなどなかったし、
「こんな駅があったんだ・・」「今度ここの駅のあのお店に行ってみたいな」
などの新しい発見もあったので参加してよかったと思った。

今でもその手ぬぐいは大切に取っておいてあり、時々広げて「この手ぬぐい、やっぱりいい♪」と思ったりしている・・

著者

匿名希望