「相鉄 のる?」オノ ハナ

「相鉄線乗る?」 
 だいちゃんの合言葉。じいじがお迎えに来てくれると、必ず聞く。違う私鉄沿線に住んでいるが、相鉄が大好きだ。
 相鉄の始発、湘南台の改札口を入ると、正面に大人より大きくて、ふっくらとした相鉄
のゆるキャラ そうにゃんが迎えてくれる。 そうにゃん台 
と書かれた下に季節を告げる工夫がされる。
 八月は 花火
 九月は 運動会              
 十月は ハロウィン           
 十一月は 相鉄百周年の飾り 
と、手作り感満載のお出迎え。それを飾って
いる駅員さんたちの姿が見えてくる。
「かわいいね、そうにゃん。」
だいちゃんは、じいじに言う。
 そして、大好きなエレベーター。 エレべ
―ターで、だいちゃんは人がいると待つ。
 エレベーターに後から人が乗ってきたら我慢の時間。エレベーターのアナウンスの真似
ができないから。自分とじいじだけだったら
「このエレベーターは、地下三階ホーム階にまいります。ホーム階です。」
と、なかなか発音がはっきりしない時もあるだいちゃんだが、機械を通して聞こえてくる音は、上手くできる。じいじは何十回とだいちゃんのアナウンスを聞いてきた。
 さあ 出発です。
 話しかけると
「静かにして、聞いているんだから。」
ホームで響く出発音。車掌さんのアナウンス。
ドアの閉まる音。至福のひと時に話しかけて
はいけない。行先は緑園都市。
 相鉄線の開業前は林や畑があり、農家の人が近隣の住宅に、野菜を売りに行くこともあった。今は、大きなマンションや建物が林立する。駅ホームには、庭園てんぼう台と
めいうった一角が設けられている。夏は冷房、冬は暖房がきいている。
 また、秋のある日、だいちゃんはじいじに
「いい匂いがするよ。何だろう?」
じいじが、首を回して見てみると、改札を出た所に、キンモクセイ、ギンモクセイが一本ずつ植えられていた。たった二本の、さほど大きくない木が、秋の訪れを、柔らかな匂いで教えてくれる。
 その木を右手に見て、目指すはアイスクリーム屋さん。アイスクリームを食べたら、また相鉄線に乗り湘南台に戻る。
 電車に座る時も、どこでも良いわけではない。そうにゃんのつり革を探す。オレンジ色の楕円形に、かわいい耳が二つ付いているねこ型のつり革だ。吊るしてあるひももブルーで、一両に二つしかない物だが、大人でも心ひかれる。その下に、座るだいちゃん。お楽しみが待っている。終点の一つ前の駅から立ってそうにゃんのつり革につかまれる約束になっている。勿論、乗客の多い時にはできない。だから乗る時は、乗客の少ない土曜日の 三時ごろ。一駅だけの特別のお楽しみタイム。
 湘南台に着くと、スイミングスクールに向かう。
歩いていくのも楽しい。今、乗ってきた相鉄の電車体験の再現だ。歩きながら、
プルルルルー、プルルルルー
  プシュー
  ガターンガターン
勿論、この合間に車掌さんのアナウンスも入る。道ですれ違う人々は、けげんな顔をする。じいじが一緒だからそれで済んでいる。じいじは思う。この子が大きくなって歩きながら、電車体験を口に出して再現する。、すれ違う人々、周りの人々は、どう反応するのだろう?
 でも、スイミングスクールに着くとじいじも元気になる。特性のあるだいちゃんを受け入れてくれたからだ。
 自宅から、通える範囲のスイミングスクール、あちこちに電話をかけて受け入れてもらえるか聞いた。たくさんの中で、たった一か所、体験教室があるので、一度来てみてくださいと、言ってくれたのは。
 門前払いでない、その子の特性を観て決める、当たり前の事を、当たり前に実施しているスイミングスクールがあった。
 プールの上から見ていると、のってはいけない約束になっているプールサイドにのり、何回も注意されている。じいじは、ダメかもしれないと覚悟をして返事を待つ
 先生と係の人が 
「大丈夫ですよ。こちらの話していることを理解しているから。」
 相鉄線で切符をなくして、慌ててパニックになっただいちゃんに、
「今日はいいですけど、これからは、気を付けてね。」
と、言ってくれた駅員さん、
 だいちゃんは、それから切符は改札のかなり前で、必ず確認する。
 プールサイドの注意も、根気強い先生方のおかげでかなり減ってきた。
 じいじは
「だいちゃんのような子たちが、やさしさに包まれる世の中であって欲しい。」
と願いながら、毎週、緑園都市とプールに通っている。

著者

オノ ハナ