「私の住む街」ミント

 今日は最悪な1日だった。
昨日買った新品の靴を履いていこうと気分は上がっていたのに、朝、窓を開けたら雨だった。しかも土砂降り。昨日の天気予報では〟曇り〟だったのに。
電車は湿気と熱気で空気が淀み、隣の人の濡れた傘がスカートにべったりとくっついていたけれど、動けなかった。
こんな日は仕事中も何かとついていないことが重なる。
 帰り道、仕事場から最寄りの駅まで雑踏の
中を歩いていると、心も体も重く、自分の毎日って何なんだろうと考えてしまう。また私の人生の一日が終わってしまった。
帰りも混雑した電車を乗り継ぎ、自宅の最寄り駅、南万騎が原に着く。
改札を出ると、心地よい風がふわりと頬を撫でる。眉間にしわを寄せ、下ばかり向いていた顔を上げると、星が出ていた。
なぜだろう。同じ横浜市内でも、横浜駅と此処では全く風が違う。空気が違う。
固まっていた身が少し緩んで、肩の力が抜けていく。
私は南万騎が原の町が好きだ。
もちろん渋谷も銀座もみなとみらいも楽しいけれど、南万騎が原の駅に着くと〝ここが自分の町だ〟と思わせてくれる空気があり、ほっとできる。疲れた私をいつも暖かく包んでくれる。
 時々、仕事帰りに駅前の相鉄ローゼンに寄る。
何を作ろうかなと考えながら歩き回ると、おいしそうな焼き魚や煮物、弁当がずらりと並んでいる。最近ローゼンはお惣菜が充実している。〝今日は出来合いの物を買ってしまおう〟と思い、手を伸ばすと隣の弁当に二割引きのシールが貼ってある。こっちのほうがいいけれど、二割引きにもひかれる…と悩んでいると、順番に割引シールを貼っていた店員さんが気付いてくれ、私が買おうとしていた弁当に急いで二割引きシールを貼ってくれた。数分違いですごく得をした気分。店員さんありがとう。次はちゃんと定価で買います。
レジを済ませ、買った商品を袋に入れていると、隣で同じように品物を袋に詰めている人と目があった。「あれ!久しぶり?元気だったー」昔からの友人だった。近くに住んでいるけれど、最近は行動パターンが違うようでなかなか会わない。会わなかった時間を埋めるかのようにお互い喋りまくり、あっという間に三十分が経過。「また集まろうね!」と別れて家路を急ぐ。帰ってからまだやることが沢山ある。              家に帰り、もうひと踏ん張りし、お風呂に入る。外では木々が風に揺れている音がする。明日は土曜日。お休みだ。今週も一週間よく頑張ったと自分をねぎらいながら湯船につかる。至福の時間。
 休日は隣接する大池公園を散歩する。朝早く起きられた時だけなので、一か月に一度位しかないのだけれど…。
たまにしか来ないので、来るたびに季節が進んでいることを実感する。
新緑の緑がまぶしくすべてがキラキラして見える春。緑が濃くなり葉が生い茂る夏。その木々でつくつくぼうしが鳴いていると、もう夏も終わりかなと感じる。落ち葉がいっぱいの秋も、空気がシンと澄んだ冬も、それぞれの季節が味わい深い。ゆっくり深呼吸してみると、なぜか生きていてよかったと思える。
たくさんの店や物が並び、多くの人が行きかう町に惹かれるけれど、ずっとそういう所にいると、無性に何もない自然の中に行きたくなる。
自然はすごいと思う。癒される。心が洗われる。そんな言葉では言い表せない〝力〟がある。多くのものをため込んで重くなった私の体を開放し、明日からのエネルギーをチャージしてくれる。
そんなとても広くて自然豊かな公園から十分かからずに家に帰れる。もちろん山の中の一軒家ではなく、ちゃんとした住宅街だ。駅までも五分で行ける。自然と便利が一緒になった不思議な街に私は住んでいる。
 日曜日は久々に横浜へショッピングをしに行く。
もうそろそろ次のシーズンの服が欲しい。この間買った靴とも合わせたいな。などと考えながら駅に着くと、ちょうど電車がホームに入ってきた。ラッキー。快速だ。しかも新型車両。車体が濃紺でスマートな印象だ。LED電球使用で環境にも優しい。柔らかで座り心地の良いシートに腰をかけると、リズミカルな揺れが眠りを誘う。
 横浜ではいくつもの店を見て回り、また最初の店に戻ったりして、やっと買うものを決め、夕方南万騎が原の駅に着く。
暮れかけた空に三日月が浮かんでいる。この町は今日も私をゆったりと迎えてくれる。
さあ家に帰ろう。

著者

ミント