「雨の日」江島ゆう子

 激しい雨粒が窓に当たっては潰れて流れてゆく。かなりの大雨だ。風もかなり強い。今日、彼がうちに来る予定だったが、ここまで雨風が強いと、来てもらうのも気が引ける。 「今日は天気がひどいから、来なくていいよ。」 そうメッセージを打った。でも、やっぱり会いたい。そのジレンマの中、送信ボタンを押せないでいた。あと2時間で約束の時間。今なら変更できる。この嵐で相鉄線がストップしたらそれこそ大変だ。今夜、彼は夜勤だから。気を引き締めて、私は彼にメッセージを送った。「いや、行くよ。」と、返事くれるかな。「夜勤もあるから、じゃ今度に。」と、さらりと返されるだろうか。横浜から海老名は、近くて、そして、遠い。窓から、遠くに相鉄線がゆっくり走っているのがぼんやりと見える。悶々と返事を待つこの思いに、雨音が重く覆いかぶさる。
 ピンポーン。
ドアベル音に、体がびくっと反応する。 「はい。」
「あ、俺。ごめん、大雨だから、早く出たんだけど、早く着きすぎちゃって。悪かったかな…。」
彼が来た!
「今開ける!ちょっと待ってて!」
 ふかふかのタオルを引き出しから急いで取り出し、狭いワンルームの中、慌てて玄関に走る。きっと、彼はびしょ濡れだ。足の小指をドアの角にぶつけて、激痛が走り涙が滲む。痛いのに、嬉しくて顔が緩む。今、玄関を開けたら、このおかしな私の表情をみて、彼はきっと、優しく笑ってくれるはずだ。(完)

著者

江島ゆう子