「あーあ。家に帰りたくないな……」
発車待ちの電車に乗り込み、ぼくは、大きなため息をついた。学校から横浜駅に向かうまでも、ぐずぐず歩いたけど、駅に着いてからも、足取りは重いままだ。
何しろ、ぼくは、めっちゃ落ち込んでいた。
ゲームもテレビもマンガも全部ガマンして、必死で算数の勉強をがんばったというのに。
返ってきた算数のテストが、四十八点という散々な結果だったのだ。
テスト当日、ぼくは、お父さんにもお母さんにも、「今回はすんごく勉強したから、絶対に百点とるよ!」などと、強気な発言をしてしまった。
なのに、こんなひどい点をとるなんて……。
ぼくは、シートの端っこに座り、背負っていたランドセルをひざの上で抱えた。算数の答案は、お母さんに見つからないように、ズボンのポケットの中にかくしていた。
ぼくは、周りに誰もいないのを確認し、ポケットの中から、答案をそろりと覗き見た。
何度見ても、四年一組 浜野聡太という名前の横に記されているのは、赤くにじむ「48」という数字だけだ。
ぼくは、四十八点の答案をポケットの中にしまい、そのまま、ぎゅっと固く目を閉じた。
こんなひどい点数を見たら、お母さんはきっと、悲しむはずだ。目を閉じていても、まぶたの裏に、お母さんの姿が浮かぶ。
悲しそうに肩を落とすお母さんや、目をつり上げて、コワい顔をしているお母さん。
そんな顔、させたくないのに、ぼくのせいで、お母さんにイヤな思いをさせてしまっているような気がした。
発車を告げるベルが車内に鳴り響く。ようやく、電車が動き出すみたいだ。
けど、ぼくは、目を閉じたまま、ぐるぐると考え事をし続けた。
このまま真っすぐ、家に帰りたくないと何度も思った。
どこか、別の駅で降りて、時間をつぶせばいいんじゃないか、とも。
でも、ぼくには、そんな勇気すら出てこなかった。学校がある日は、朝と夕方の二回、横浜から天王町の駅を行き来するだけなのだ。
ぼくは、この四年間、知らない駅で降りて、寄り道したことなんて、一度もなかった。
そもそも、ぼくが乗るのは、たった三つ分の駅しかないから、居眠りをして寝過ごすなんてこともないのだ。
……家に帰りたくない。けど、家以外、他に行く場所なんて、どこにもない。
ぼくは、閉じていた両目を、ゆっくりと開けた。今、電車がどの辺を走っているのか、気になったからだ。
すると、ミョーなことに気がついた。
ぼくのとなりに座ってる人の足が、ふっかふかの毛をしたオレンジ色だったのだ。
(ええっ! なんだ、こいつ?)
ぼくは、ギョッとした。
アニメやマンガのキャラクターになりきっている人が、電車に乗ってるところなら見たことがあったけど。こんな、ふかふかの着ぐるみを着てる人なんて、はじめてだ。
(ヘンな人のとなりに座っちゃったなぁ)
ぼくは、むねがドキドキ、ソワソワした。
思いきって、となりの人の顔を見てみたいけど、にらまれたりしたら、コワい。
だから、ぼくは、だまったまま、じいっと、となりの人の足と、自分の足を見くらべた。
ぼくは、学校指定の紺色のハイソックスに、黒色の革グツを履いていた。ソックスは、ひざの辺りまでピッとしっかり伸ばして履いているし、革グツもピカピカと光ってる。
四年生ともなると、時々、くつ下をだらしなく履く子もいるけど、ぼくはきちんとしているのが好きなのだ。
一方で、ぼくのとなりに座るオレンジ色の足は、着ぐるみというよりも、ホンモノの毛のように見えた。足元からあったかい風が吹くたびに、オレンジ色の毛先が、ふわふわっと、気持ちよさそうに、ゆれるのだ。
(ちょっとくらいなら、いいよね……?)
ぼくは、真っすぐ前を向いたまま、目だけをチラリと、オレンジ色の着ぐるみに向けた。
ぼくの視界に、着ぐるみのお腹が見える。
どうも、となりの人は、青色の、へんてこりんな服を着てるみたいだ。お腹はぽっこりとしていて、タヌキみたいに、まるかった。
(さいしょ、ネコかと思ったけど……。もしかして、タヌキの着ぐるみなのかな?)
ぼくは、ちょっとだけ、吹き出しそうになった。何とか、口元を手でおさえたけれど、顔はぜったい、にやけていたと思う。
その瞬間、むかい側の窓から、見なれた景色が見えた。
電車がゆっくりとホームにすべり込んで行く。
あれっ? もう、天王町の駅?
まずいぞ。ここで、降りなきゃだ。
ぼくは、ひざの上でかかえていたランドセルをつかみ、背中に背負おうとした。
立ったついでに、となりに座っているオレンジ色の着ぐるみを、まじまじと見る。
……すごいな。まるで、生きてるみたいだ。
もふもふしたデッカイ耳に、くりくりした大きな目。ほっぺたの辺りから、ちょこっとだけ伸びる、短いヒゲ。どこからどう見ても、まるで生きているみたいに見える着ぐるみが、ぼくの目を見て、一瞬、ニコッと口元をゆるませた。
(笑った! 今、ぜったい、笑ったよね?)
ぼくは、背中がぞくぞくした。
この場でさよならだと思ったのに、オレンジ色の着ぐるみまでもが、ぼくと一緒に乗車口の扉の前に立ったのだ。
ぼくは、あんぐりと口を開けたまま、着ぐるみと一緒に電車を降りた。なんだか、夢を見ているみたいな気分だ。
何しろ、電車には、ぼく以外にも、何人もの人が乗っていたのに、だれも何もさわいだり、はしゃいだりしてなかった。
今だって、そうだ。こんなヘンな着ぐるみがトコトコと駅のホームを歩いているのに、だれ一人、ふり向く人がいない。みんな、平気な顔をして歩いているし、立ち止まる人もいない。
(なんで? もしかして、ぼくにしか、見えてないってこと?)
ぼくは、わけのわからないまま、オレンジ色の着ぐるみの後を追いかけた。
デッカイ頭は、ミカンみたいに、ぼてっとした形で、おしりの辺りから、しましまのシッポがゆらゆらとゆれ動いていた。
シッポは、オレンジと青の二色で、踏み切りみたいに、くっきり色が分かれている。
ぼくは、その後ろ姿を見た時、ようやく、あることに気がついた。
この着ぐるみは、オレンジ色のタヌキではなく、「そうにゃん」だったのだ、と。
ぼくがいつも乗っている電車のつり革とか、駅のポスターとかでも、見たことがある。
「そうにゃん」は、車掌さんと同じ、紺色の帽子をかぶった、ネコのゆるキャラなのだ。
ぼくも、そうにゃんがかぶっているのとそっくりな、紺色のぼうしを今、かぶっている。
それは、本当にたまたまだったけど、ぼくにとっては、この場で飛びはねたいくらい、嬉しいぐうぜんだった。
それに、ぼくと、そうにゃんの共通点は、ぼうしだけではなかった。実を言うと、ぼくも友達に、「聡やん」とか「聡にゃん」いうあだ名で呼ばれることがあるからだ。
「待ってよ。そうにゃん。どこに行くの?」
ぼくは、思い切って、そうにゃんに声をかけた。ぼくにしか見えてないなんて、本当にふしぎだけど、これ以上、だまってなどいられなかったのだ。
そうにゃんは、ぼくの呼びかけを聞き、大きな耳をぴくぴくさせた。くるりとこちらをふり向き、そうにゃんが、にやりと笑う。その笑みは、まるで、(気になるなら、ついてきなよ)とでも、言っているかのように、ぼくには見えた。
だから、ぼくは、迷うことなく、そうにゃんの後をついて行った。これまでにも、何度となく、電車を乗り降りしてるのに、こんなことは初めてだ。
たまたま乗った電車で、そうにゃんのとなりに座った、だなんて。多分、だれに言っても、信じてもらえないに違いない。
でも、ぼくは、嬉しくて、たまらなかった。
だって、そうにゃんときたら、ネコのはずなのに、すごーくすました顔して、ぼくの横を歩くんだ。
改札をぬける時だって、まるで、人間みたいだった。そうにゃんは、手の平にある肉球を改札にタッチし、「ピピッ」という音と共に、出て行ったんだ。
「ねえ、そうにゃん。さっきみたいに、いつも電車に乗ってるの? だれにも気がつかれずに、ナイショで?」
そうにゃんは、大きな目でぼくを見つめ、鼻をひくひくさせた。人間みたいに、返事はできないみたいだけど、ぼくの言葉はちゃんと伝わっているのがわかった。
「けどさ。なんで、ぼくにだけ、君のことが見えるの? ぼく、いつも、あの電車に乗っているのに、そうにゃんに会えたのなんて、今日が初めてなんだよ?」
聞きたいことがありすぎて、ぼくはたくさんの質問を、そうにゃんにぶつけた。そうにゃんは、駅の階段を下りながら、うんうんと、何度も首をたてにした。
「そんな返事じゃ、わかんないよ。そうにゃん。今日は、たまたまってこと? それとも、ぼくだから、見えたってこと?」
なおも食い下がると、そうにゃんは、ふかふかしたオレンジ色の手で、ぼくのむねを、トン、と軽く叩いた。
『ンニャオ』
そうにゃんの鳴き声が、ぼくの心にずしん、と響く。「そうだよ」とはっきり、言われたような気がした。
「で、でも、なんで? どうして、ぼくにだけ……?」
ぼくは、心臓をドキドキさせながら聞いた。
すると、そうにゃんは、ぼくにおしりを向け、しましまのシッポを大きく左右にゆらして見せた。目にも鮮やかなオレンジと青のしましま模様が、ぼくの目の前でゆれる。
「えっ? えっ? なにこれ? 何なの?」
その瞬間、ぼくの周りが、オレンジと青の光に包まれた。二色は、まるで絵の具のように交じり合いながら、ぐにゃりぐにゃりと色を変え、形を変え、ぼくが見ていたはずの景色まで、すっかり変えてしまったのだ。
ぼくは、軽いめまいを覚えた。
ここは確かに、ぼくがいつも学校への行き帰りで通っている駅前のはず、だけれども。
何かが、いつもと、違った。
駅を降りて、すぐのところにある、八百屋もタバコ屋も、いつものおじさん、おばさんではなく、ネコが店番をしていた。
通りを歩いている人も、よく見ると、みんな、人ではなかった。二足歩行でスタスタと道を行く、洋服を着たネコばかりだ。
ぼくは、左右を見、後ろをふり返った後、駅の看板を見つめた。
「天猫町駅……? 天王町駅じゃないの?」
ぼくは、そうにゃんのうでをつかんだ。ふかふかの毛皮が、ぼくの指の間に、すっぽりとはまる。なんとも言えない手触りだった。
そうにゃんは、ぼくの手をにぎり返し、そのままスタスタと、駅前の道を歩き始めた。
見知らぬ世界に迷い込んでしまったようで、怖かったけれど、そうにゃんの手の温もりが、ぼくの中にある不安を薄めてくれた。
そうにゃんは、何も言わぬまま、帷子川を越え、そのまま、まっすぐ道を進んだ。
いつもならば、この先には、国道十六号があり、道の向かい側は、松原商店街の入り口が見えるはずだった。
でも、この日は、商店街の様子も違っていた。猫原商店街と記された色鮮やかなアーチ門が、ぼくの目の前にせまる。
「この町は、どこもかしこも、ネコだらけなんだね……?」
ぼくは、商店街のアーチ門をくぐりながら、そうにゃんに尋ねた。
そうにゃんが、こくりとうなずく。
猫原商店街の中は、まるでお祭りのようだった。着物を着たネコもいれば、スーツを身にまとっているネコもいる。左右に立ち並ぶいくつものお店では、エプロン姿のおばさんネコや、ねじりはちまき姿のおじさんネコが、「ニャゴニャゴ」と大声を張り上げていた。
ぼくの心は、ドキドキとワクワクが入り混じっていた。こんなふしぎな世界、見たことがない。
右を見ても、左を見ても、ネコしかいないなんて、すごくコワかったけど、おもしろくもあった。
そうにゃんは、ぼくの手を引き、猫原商店街の中を案内してくれた。
何匹ものネコが行列をなす、大人気の魚屋もあれば、道行くネコがメロメロになる「またたび屋」なんて店もあった。お菓子屋も洋品店も、クツ屋もみんな、ネコのためのお店ばかりだ。
そんな中、そうにゃんは、和菓子屋の店先で足を止め、ネコ判焼きを二つ買い求めた。
一つは、そうにゃんの分で、もう一つは、ぼくの分みたいだ。ネコ判焼きは、ネコの手形をした皮に、びっしりとアンコが詰まっていた。
「ごめん。そうにゃん。ぼく、帰り道に買い食いしたり、知らない人に物をもらったりするの、ダメなんだよ。ママに怒られちゃう」
ぼくが断ると、そうにゃんは、大きな耳と短いヒゲをしょぼんと垂らし、さみしそうに目をうるませた。
そうにゃんは、どうも、甘いモノが大好物みたいだ。鼻をひくひくさせながら、食べるのを必死にガマンしている。せっかく、ぼくの分まで買ってくれたのに、食べないなんて、何だかとっても、申し訳ない気がした。
「そうにゃん。ごめん。やっぱり、ぼく、ネコ判焼き食べてもいいかな? そうにゃんは、知らない人じゃなくて、ぼくもよく知ってるネコだし。今いるのも、帰り道っていうか、知らない町だから、今日だけ特別ってことで」
そうにゃんは、パッと目を輝かせ、『ンニャオ♪』と甘えた声を出した。ほかほかのネコ判焼きを小さくちぎり、うっとりした顔で、そうにゃんが食べ始めた。
「ネコってホントにネコ舌なんだね。そんなに冷まさなくても、がぶって食べられるのに」
そうにゃんは、ぷるぷると首を横にした。
しましまのシッポまで、一緒になって、震わせたくらいだ。
その後も、そうにゃんの食欲は止まらなかった。そうにゃんは、どうも、食べ歩きが大好きなようで、数メートル歩いては、立ち止まり、買い食いするということを何度も、くり返した。
おかげで、ぼくのお腹はパンパンになった。
そうにゃんのお腹も、タヌキみたいに、ポンポコリンにふくれ上がっていた。
「そうにゃん。ちょっと、待って。ぼく、お腹が苦しすぎて、動けないよ」
そうにゃんとぼくは、ネコ判焼きに、ネコロッケ、ネコーラ、ネコんぺいとう等々、甘いものを中心にいくつも平らげていた。
猫原商店街のネコたちが、すごく親切でやさしいネコたちばかりなので、ついつい調子に乗って食べすぎてしまったのだ。
ぼくとそうにゃんは、公園のベンチに座り、わずかな間、食休みをすることにした。
そこは、砂場やブランコがあり、ぼくの家の近所にある公園とよく似ていた。違うのは、そこで遊んでいる子が、人間ではなく、子ネコだという点だけだ。
子ネコたちは、お母さんネコや、お父さんネコと共に、ボールで遊んだり、砂場で砂浴びをして楽しんでいた。
ぼくは、公園の角に店を構える、一つの屋台をじいっと見つめた。屋台では、色とりどりの風車がカラカラと音を立てて、いそがしく羽を回していたのだ。
(今ごろ、お母さん、心配してるかな……。ぼくが、帰ってこないって、駅まで探しに行ってるかもしれない)
ぼくは、何だか急に、心細くなった。
カラカラと回る風車の音に重なるように、お母さんの悲し気な顔が浮かぶ。
そうにゃんと一緒に、知らない町を探検して、すっかり楽しんでしまったけれど。
ぼくは、ぼくがいた町に帰りたくなった。
どんなに楽しい場所でも、ここは、ぼくにとって、本当の居場所じゃない。テストの点が悪かったくらいで、家に帰りたくないだなんて、間違っていたと気がついた。
お父さんとお母さんは、勉強のできるぼくが好きなわけじゃない。
例え、テストの点が悪くたって、ぼくのことを愛してくれていた。
朝早くから電車にゆられて、学校に通うぼくを、「聡太は、本当にがんばり屋さんだね」と、いつだってほめてくれていた。
それに、家族だけじゃない。商店街の人たちも、ぼくのことをいつも気にかけてくれていた。店の前をいそがしく立ち回るおじさんもおばさんも、みんな、知り合いみたいなものだ。
ぼくが、ランドセルを背負って歩いていると、どこからともなく、声をかけてくれる。
「聡ちゃん。今から学校かい? えらいね」とか。
「かっこいい制服とぼうしだねえ。すんごく似合ってるよ」など。
そんなこと、ずっとずっと、当たり前だと思っていたけど、本当は当たり前なんかじゃなかったんだ。
ぼくを見つけて、声をかけてくれる。あいさつをしてくれる。手をふってくれる。お家にもって帰りなと、おみやげに、ミカンや、りんごを持たせてくれる。そんな人たちに、ぼくはずっと、見守られていたのだ。
ぼくは、ひざの上でぎゅっと手をにぎり、くちびるをかみ締めた。
ポロン、と一粒、ぼくの目から、なみだがこぼれる。そうにゃんは、そんなぼくを見て、ふわっとやさしく、ぼくのことを抱きしめてくれた。
「……帰りたいんだ。そうにゃん。ぼくは、ぼくがいた町に帰りたい」
ぼくの背中で、ランドセルがカタンと小さな音を立てた。そうにゃんが、大きな目で、ぼくを見つめ返す。ちょっとだけ、横にずれてしまったぼうしを、そうにゃんが、きちんと、ぼくの頭の上にかぶせてくれた。
「ありがとう。そうにゃん。ぼく、君のおかげで、とっても大事なことに気がついたよ」
『……ンニャオ』
そうにゃんは、少し悲しげな声を出した。
そうにゃんも、ぼくと同じで、別れをさびしがってくれているのを感じた。
そうにゃんは、手を振る代わりに、しましまのシッポを大きく左右にゆらした。
オレンジと青の光が、ぼくの周りを包む。
光は、互いに交じり、重なり合いながら、ぼくの体を元の世界へと、連れもどしてくれた。
「ママ~。ただいまぁ」
ぼくは、玄関の扉を開けるなり、大きな声を発した。廊下の向こうからパタパタとお母さんの足音がする。
「おかえり。聡太。今日は少し遅かったね?」
「うん。ちょっとね。いろいろあって」
ぼくは、かぶっていたぼうしを脱ぎ、お母さんに渡そうとした。
すると、その瞬間、ポトンと、何かがぼくの頭からすべり落ちた。
小さな袋に入った、ネコ型の金平糖だ。
「あら? なあに、これ。金平糖?」
床に落ちた小さな袋を、お母さんが拾った。
よく見ると、色とりどりの金平糖の中に、一つだけ、鮮やかなオレンジと青色をした、しましまのシッポが入っていた。
(すごい。小さいけど、ちゃんとシッポの形に見える)
ぼくは、お母さんから袋を受け取り、両手でそっと、ネコんぺいとうを包み込んだ。
金平糖は、口の中に入れたら、とけてなくなってしまうけれど。
ぼくが今日、そうにゃんと過ごした時間は、この先もずっと、忘れないと心に決めた。
それに、いつかまた、あのしましまシッポに出会える気がするんだ。
この町のどこかで、きっと――。 (完)