大学の夏休みに入った。イギリス行きまで、一週間になった。準備も忙しくなり、美果とも、打ち合わせした。ツアーじゃなくて、二人で行く予定だ。
一度、由紀子は、母親と行っているので、少しは自信があった。そして、いよいよ出発の日がやって来た。母は心配して「大丈夫。ツアーの方が良かったんじゃない?」
「平気、大丈夫。わからなかったらポリスに聞くから。航空会社とかホテルとかに。着いたら連絡します。」「行ってらっしゃい。」
美果と横浜の西口で、待ち合わせた。
羽田まで、バスで行く事にした。
イギリスは、今回、ロンドンだけにした。
イギリスに無事到着した。ホテルまで行こうとしたら、空港で、ばったり、由紀子の大学の教授の山本先生(山本浩二)に会った。「先生、どうしてこちらに。」
聞くと「僕は毎年大学の夏休みに来ているんです。長い間イギリスに留学していました。もし良かったら、案内しますよ。」と言ってくれた。由紀子は「ラッキー。ありがとうございます。実は少し不安でした。」
「ロンドンでは、国会議事堂の「ビッグベン」時計塔だね。テムズ川を渡る橋からの景色は最高ですよ。バッキンガム宮殿も素晴らしいね。僕の留学先は、オックスフォード大学だった。構内を散策しましょう。明日、行ってみようね。今日、もう遅いからホテルまで送ってあげるよ。」「ありがとうございます。」と言ってホテルの前で、別れた。そして明日、十時にホテルで待ち合わせる事になった。
次の日の朝、山本先生は、ホテルのロビーで待っていてくれた。美果も「すっかり安心して、良かった。少し心配だったのよね。」
今日は、僕が、イギリスの魅力たっぷりの場所を案内します。そして行きつけのお店でランチをしましょう。先生は、車で案内してくれた。楽しかった。夢のような時間だった。
次の日、先生のマナーハウスに行った。
そこは、上等な絨毯が敷かれていて、素敵なソファーが、置いてあった。暖炉の上に絵が、飾ってあり、由紀子と美果は、感動していた。
本棚には、沢山の本があり、先生のシェイクスピアに関する研究は、有名である。
そして、ケーキを、先生に渡した。先生は紅茶を用意するので、待っていてと言って、キッチンの方へ行った。
由紀子は、部屋を見回した。窓辺の小さいテーブルの上に、写真がいくつか置いてあり、その中に、先生の大学時代に写した写真の中に、母が写っていた。
びっくりした。先生と母、大学が同じだったんだ。先生は戻ってきて、紅茶を入れてくれた。「私、いちごのケーキ、大好きなんです。」と由紀子が言うと、先生は、「実は、僕も大好きなんですよ。」美果は「私、チョコレートが好きです。」
先生は、留学した時の事を話してくれた。私たちの将来の夢などを話して会話が弾み、由紀子は「先生、私の母と同じ大学なのですね。」「僕は慶応大学で、サークルが一緒だった。あの、そう言えば、井上さんのお母さんは、お元気ですか。」「はい。今、高校の英語の先生をしています。私、父がいないので、祖父と祖母と母と四人で暮らしています。あっ、そう太郎という猫も。電車が大好きで、可愛いのです。」
そろそろ、ホテルに帰る時間になり、先生はホテルまで、送ってくれた。
明日、日本へ帰る予定だ。
先生は、また空港まで、送ってくれた。
「ありがとうございました。お世話になりました。」
そして、無事に、日本に着いた。
帰国後、由紀子は、母にイギリスで大学の山本先生に、すっかりお世話になったことを話した。「良かったわね。心配していたから、助かった。先生にお礼を言わなくては。」とそれ以上話しをしなかった。
由紀子は、母が何か隠している様子がわかった。由紀子も聞かなかった。
それから二週間後、山本先生から由紀子の母恵子に連絡があり、二人は会うことになった。シェラトンホテルのカフェで一時に約束した。
ホテルに着き、山本先生は待っていた。
「本当に久しぶりですね。お元気でしたか。」
「僕は今フェリス大学の教授をしています。」「私は、英語教師を続けています。先日は娘がイギリスでお世話になりました。ありがとうございました。」
山本先生は急に「懐かしいなあ、恵子さん変わらないなあ。由紀子さんは良いお嬢さんですね」と言った。
「ええ、私、一生懸命育てましたから。」
由紀子の母は少しうつむいて言った。「実は由紀子はあなたの娘です。」「それは、どういう事。」「あなたには知らせなかった。あなたは、留学も決まっていたし、将来の道を成功の道を邪魔したくなかった。そして、私は、一人で育てる決心をしました。」
「何で、知らせてくれなかった。驚いた。許して欲しい。今まで苦労を掛けてすまなかった。」山本先生は頭を下げた。
「これからはあなたを一生守っていきます。何でも相談してください。」と言った。
由紀子の母は泣いていた。そして、二人はその後、お茶を飲み、別れた。
夏休みは終わり、大学も始まった。
同級生の美果から、ランチの誘いがあったので、海老名のららぽーとに出掛けた。
「今、海老名、発展しているね。買い物、便利だし、住みやすそうだね。」美果が「この前、由紀子のお母さん、山本先生と会っていたのを見たよ。シェラトンホテルで。」「えっそう。この前のお礼か何かでしょ。」と由紀子はちょっと不思議だった。
家に帰ると、母に、由紀子は「ホテルのカフェで会っていたの?」と尋ねた。「えっ。」ちょっと焦っていたみたいだった。
「由紀子のこの前のイギリスのお礼をしたの。」「あ、そうか。それなら良いけど。」
「母と先生、大学が同じで、話が楽しかった。何年振りかしら。懐かしかった。」
ちょっと嬉しそうだった。
由紀子は自分の部屋へ行った。
「お母さん、もう少し大学時代の話をしてくれるのかなと思ったけど、何か隠している様子だった。」
もう一度聞いてみようと思った。
横浜に母と出掛けた。
イチョウ並木が紅葉して美しかった。母と私はニューグランドホテルで食事をした。
母の誕生日だったからだ。
その帰り、山下公園に行った。
そして、母は話し始めた。「由紀子驚かないで聞いてね。実はね、あの山本先生とは、恋人同士だった。愛し合っていた。結婚したかった。でも、彼は、イギリスへ留学する夢があった。
私は諦めた。彼の成功の邪魔をすることはできなかった。そして私たちは別れた。
彼はイギリスのオックスフォード大学へ留学するために出発した。私は英語の教師になった。でもお腹に赤ちゃんが出来ていた。それはあなたなの。ごめんね。許してほしい。」
由紀子は本当に驚いて、言葉が出なかった。そして、そのまま走って、電車に乗り、天王町の伊藤君のアパートの前に立っていた。伊藤君が、ちょうど出掛けようとしていた時だった。びっくりして「どうしたの。イギリスから帰ったんだね。良かった、会いたかった。僕も伊豆に行っていたから。それで、どうしたの?
部屋に入る?どうぞ。お茶でも入れるよ。」
「ごめんね、急に来て。実はね、大学の山本先生、私のお父さんだった。」「えっそれ何?」
「母は、大学の同級生で、昔、恋人同士だった。そして先生は、留学して、私の事は、知らなかったみたい。母は、一人で育てるつもりだったらしい。私、ショックで、どうにかなりそう。今日は、家に帰りたくない。泊めてくれる?」「いいよ。午後から、大学だから帰ったら夕食を食べよう。部屋で待っていてね。」「はい、わかりました。」
伊藤君は、心配すると、いけないので、由紀子の実家に連絡した。
そして、夕食を食べて、テレビを見て、ワインなどを飲んで、伊藤君はぐっすり寝てしまった。
次の朝、由紀子は、大学を休んで、伊藤君と大桟橋に海を見に行った。ちょうど外国船が停まっていた。「この船で外国へ一緒に行きたいね。生きていると色々な事があるよね。元気だして。中華街でも食事をしようか。」そして二人は散策して元町を通って横浜駅に戻り「私そろそろ帰る。ごめんね、色々ありがとう。」
そして由紀子が帰ると、母は仕事からまだ帰ってなかった。
祖母が居て「由紀ちゃん、お母さん心配していたよ。お母さんの事、許してあげて。大変だったんだから。そして由紀ちゃんがいて、本当に良かったと思っている。」と言われた。
次の日の夜、同級生の四人は、集まった。
由紀子の話しを聞いた。「それは大変だったね。」でも生きていると問題は、誰もが抱えていて、なんとか乗り越えて生きて行っている事など話しをし合った。
由紀子は、少しずつ、許す事に、気持ちが変わっていった。
そして、母と夜、話し合った。
「由紀ちゃん、ごめんね。私を許してほしい。本当に、悪かった。あなたに寂しい思いをさせてしまって。」涙をいっぱいためて、話していた。「いいの、私、平気。今まで幸せだったし、素敵な家族もいたし、私、お母さんと仲良く、これからも、やって行くから。」
「ありがとう。」私の手を握って、よろしくね、これからも。
一週間後、由紀子は、先生と会った。「山本先生、先日、イギリスでは、ありがとうございました。」先生は「イギリス、楽しめて良かった。お母さんの事、本当に申し訳なかった。由紀子さん、どうしたら良いかと思っている。でも、僕は今でも、お母さんを愛している。これから幸せにしたいと思う。大切に思っている。由紀子さん、僕の娘だったんですね。」頭を深々と下げた。
由紀子は「母をよろしくお願いします。」と言って、その場を立ち去った。
由紀子は、そのまま自宅へ帰らず、ベイクウォーターから、海を見ていた。
伊藤君に連絡した。そして話しをした。
「元気だせよ。世の中色々あるから、僕なんか本当の母親は、もういないし、お母さんと先生を許してあげれば。」「そうする。私たちこれから問題もたくさん出てくるかもね。でも乗り越えて希望を持って生きて行かなくちゃね。来年は就活だから、がんばろうね。」と言って別れた。
四月に入った。瀬谷駅北口から歩いて二十分位の所に、桜の名所の海軍道路がある。すごく美しい桜並木があり、有名である。
四人はお花見に出掛けた。満開だった。
「就活スタートしたね。皆どう?」「大変だよ。2回目の試験で落とされたり、なかなかね。そのうち、どこか受かると思うけど。精神的にしんどいよね。」
そして、半年が過ぎ、第一希望は、無理だった。皆それぞれ色々受けて、なんとか受かり本当に大変だった。四人それぞれ、入社が決まった。
横浜西口のシェラトンホテルで、お祝いすることになった。山口君が「おめでとう。皆決まって良かったね。」ワインで乾杯した。
伊藤君は「これからは、自分で、責任を持って、一人前の社会人として生きて行くんだね。それぞれ、悩みや、問題を抱えていても、希望を持って、前に進まないとね。」
由紀子は「私たち、皆、輝ける未来に向けてがんばりましょう。」と言った。
四人は無事に大学を卒業し、社会人としてスタートする事になった。「今度、相鉄が、東京まで直通になる。相鉄とJR直通線(西谷から羽沢)が2019年度夏季に、相鉄と東急直通線(羽沢から日吉)は、2022年度夏季に開業予定と決まったらしい。
凄く便利になるね。通勤、通学も時間短縮になり、沿線の街も変わって行くね。」と伊藤君が言った。
由紀子は「画期的な事ね。私たち皆の、夢や希望を乗せて、走っていくのね。
輝ける未来へ向かって一緒にスタートです。」
出発進行、旅立ちの時である。